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めちゃめちゃピュア

「詳しくは知らないが……出張というからには、呼べば来てくれるものなんだろう。要するに、パーティーなどに呼ばれるコンパニオンの男性版じゃないのか?」  接待向けのコンパニオンなら、篠宮も屋形船の宴会などで眼にしたことがある。料金によっては若干お色気的なサービスもあるとは聞くが、なにせ興味がないので知識もほぼ皆無だ。 「まあ、表向きにはそうなってる場合もあるけど……客のニーズに応じていろんなサービスがあるんだよ。たぶん篠宮さんは、ライトなほうで想像してるんじゃないかなー」 「ライトとヘビーがあるのか?」  さらに謎な言い回しを耳にして、篠宮はもういちど聞き返した。ホストといえば、ドラマなどで見るホストクラブの無駄に華やかなイメージしかない。シャンパンタワーやテーブルクロス引きを披露して、パーティーを盛り上げてくれるものだと思っていたのだが、どうやらそれだけではないらしい。 「え。あの……結城さん? 篠宮さんって、いつもこんな感じなんですか?」   サービスにライトとヘビーがあるのか。篠宮としてはいつもどおり、単なる知識欲から出た質問なのだが、彼女はそうは受け取らなかったようだ。興奮した様子で声を震わせ、天然記念物でも見るような眼で篠宮に好奇の視線を向けている。 「真面目そうな外見に加えて、内面もめちゃめちゃピュアじゃないの……嘘でしょ? 可愛すぎる」 「ちょっと吉沢さん、駄目ですよ! 惚れないでくださいね! 俺のなんだから」  結城が口をとがらせて抗議した。 「うーん、惚れそうだけど……頑張って我慢するわ」 「そうしてください。俺の大事な篠宮さんにちょっかい出す人は、誰であろうと許しませんから」  自分そっちのけで勝手に話が進んでいくのを苦々しく思いながら、篠宮は仕方なく口を閉ざした。こういう時はあえて何も言わず、黙っているのが得策だ。 「ね、篠宮さん。出張ホストのヘビーなサービスについては、後で俺がじっくり教えてあげるから。こんなとこで可愛さとフェロモン撒き散らさないように! いいね」  怒ったような、からかうような声で短く言い放ち、結城が篠宮を横目で睨みつける。 「へえ……意外だわ。そうだったのね」  二人の顔を見較べながら、彼女が妙に達観した顔で呟いた。 「え? そうだったって……どういうこと?」 「いや……ほら。なんていうか。奥が深いもんだなと思って」  彼女が奥歯に物の挟まったような言いかたをする。もちろんそれで納得できるはずもなく、結城はさらに食い下がった。 「ちょっと吉沢さん。奥が深いって、どういう意味ですか? ちゃんと話してくださいよ」 「え……でもねえ。あはは。これ言うと、セクハラになっちゃうわよ」  ……セクハラ。その単語を聞いて、篠宮は彼女が何を言いたいのかすぐに直感した。ここ数か月というものの、結城から毎日のように性的嫌がらせを受け続けているせいか、その手のことになると異常なくらい勘が働く。 「もう……意地悪だなあ。言ってくださいよ。気になるじゃないですか!」  本当に分からないのか、結城は焦れったそうに両手をもんで彼女に問いかけた。  馬鹿、いちいち訊くな。そう思って、篠宮は心の中で結城に向かって悪態をついた。普段は勘がいいくせに『奥が深い』という彼女の言葉からは何も読み取れないらしい。

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