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深刻な問題

「いやあ、その……お二人って、なんとなく逆なのかと思ってたのよね。篠宮さんはいかにも頼りがいがありそうな感じだし、結城さんのほうが甘え上手っぽいし」 「……逆?」  結城が鸚鵡(おうむ)返しに聞きただす。  どうにもいたたまれない気持ちになり、篠宮は黙って眼を伏せた。『意外』にも『逆』だったという彼女の認識。そしてセクハラという言葉。話がそう来たら、自分たち二人の、ベッドでのポジションのことに決まっているではないか。 「……そっか! よくよく考えてみれば、それもアリですよね!」  結城が、ようやく腑に落ちたという顔で手を打った。 「馬鹿、そんなことあっ………!」  有りじゃないと言いかけて、篠宮は慌てて口をつぐんだ。それを口にしてしまったら、自分は抱かれる専門だと宣言しているようなものだ。そうだと認めてしまうのは、男としての矜持が許さない。 「……まあ仲が良いなら、どっちがどっちだろうと構わないと思うわよ、私は。それよりも、モデルよモデル! あなたたち二人に断られちゃったら、もうどうしていいか判らないわ」  彼女がそう言って頭を抱える。早々に話題を切り替えてくれたことをありがたく思いながら、篠宮はほっと胸を撫で下ろした。ファッション雑誌の編集に携わる者としては、他人の閨房事情などより、モデル探しのほうが遥かに深刻な問題なのだろう。 「もちろん、手の空いてるモデルなんて他にいくらでもいるけど……なんていうか、ぴんと来る人が居ないのよね。それを正直に編集長に言ったら『じゃあおまえが探してこい!』とか言われちゃって」  現場の大変さを伝えるその言葉を聞いて、結城が不思議そうな顔をした。 「でも、吉沢さんって……『ライター』ってことは、記事書く人なんですよね。モデルの手配は別の人が担当してるんじゃないですか?」  「担当が誰とか言ってる場合じゃないのよ。なんたって、編集長含め六人で回してんだから」 「そうなんですか?」 「うちぐらいの規模の雑誌だと、どこも割とそんなもんよ。ライターってのはあくまでも便宜上の肩書き。撮影の時だけは外部に応援を頼むけど、普段はモデルさんとの打ち合わせも、写真の選別も特集組むのもぜんぶ兼任しなきゃいけないの。できる事はなんでも、場合によってはできない事までやらされるんだから。大変なのよ」 「はあ……」  ファッション雑誌のライターといえば、お洒落なカフェに取材に行ったり芸能人にインタビューしたりと華やかなイメージがあるが、実際は想像もつかないほど過酷な労働らしい。それでも彼女たちがその仕事を続けているのは、一冊の雑誌を作り上げることに、他では得がたい達成感があるからだろう。

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