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押しに弱い
「雑誌の写真っていったって、そんな大げさなもんじゃないから大丈夫よ。えーとね……これは先月号なんだけど」
傍らの鞄を探り、彼女は一冊の雑誌を取り出した。ぱらぱらとページをめくって真ん中あたりを開くと、篠宮たちからよく見えるよう両端を引きながら掲げてみせる。
「このくらいの感じで載るの。どう?」
篠宮は開かれたページをまじまじと見つめた。上段と下段に一枚ずつ写真が掲載され、後はブランドの紹介と記事で埋まっている。たしかに顔は写っているが、そこまで大きく載っているというわけでもない。以前イベントでスピーチをした時に、ビジネス雑誌に写真が載ったことがあるが、それと大差ない大きさだ。
「ね? そこまで、巻頭グラビアばばーん! みたいな感じじゃないから。いけそうでしょ?」
「いえ、私にはとても……」
「このくらいなら、そんなに気負わずにできそうですね! ねえ篠宮さん、やってみましょうよ」
篠宮が断りかけるのとほぼ同時に、結城は声をあげて承諾するよう促した。
「そんなに雑誌に載りたいなら、君一人が引き受ければいいだろう」
「嫌ですよそんなの。俺は別に雑誌に出たいわけじゃなくて、篠宮さんと一緒に写りたいだけだもん。ね、吉沢さん。俺、篠宮さんとラブラブな写真を、プロのカメラマンに撮ってもらいたい! モデルの話を引き受けるなら、一枚くらい撮ってもらっても良いですよね?」
「馬鹿、引き受けるなんて一言も……!」
焦って結城の声をさえぎるものの、もはや後の祭りだ。彼女の鋭い耳は、その言葉を聞き逃さなかった。
「もちろん! なんなら、でっかいパネルにしてあげるわよ! そりゃもう黒歴史になるような、別れた後に始末に困るくらいの感じで!」
「やだなぁ吉沢さん。俺たち、絶対別れたりしませんよ。なんたって、運命の赤い糸で結ばれてるんですから」
「はいはい、末永くお幸せにね。ふふ」
結城の惚気 話に彼女が明るい顔で応じる。相変わらず二人で盛り上がっているのを見ながら、篠宮はわざと渋面をつくって見せた。このまま、どさくさに紛れてモデルの話を承諾させられてはたまらない。
「もし、私たちが断わったら……その時は、どうするおつもりなのですか」
篠宮がそう言うと、彼女は人が違ったように深刻な顔を見せた。
「そうなったら仕方ないわね。当初の予定通り、例の出張ホスト君に頼むしかないわ。あー、篠宮さんがモデルを引き受けてくださらなかったせいで、うちの雑誌のイメージが地に落ちるのね……私は首になって路頭に迷うんだわ……ああ、どうしたらいいのかしら」
芝居がかった口調で、彼女が大袈裟にひたいを押さえる。
「いや、そう言われましても……」
「もう浴衣ときたら、私にはあなたたちしか考えられないの! ね、お願い!」
篠宮は困り果てて眉を寄せた。泣きそうな眼差しでこうも真剣に両手を合わせられては、断るものも断りづらい。
自分は押しに弱かったのか。隣にいる結城の顔を見て、篠宮は妙に感慨深い気持ちになった。
そう、自分は押しに弱いのだ。そのことは半年前、彼と付き合うことになった時に、身をもって思い知ったはずではないか。
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