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ファッションモデル

 篠宮たちの勤める会社では、社内の規則や規程について疑問点があった際、相談窓口となるのは総務部ということになっている。  もしかしたら、不特定多数に顔を知られるような副業は駄目だと言ってもらえるかもしれない。微かな期待を込めて昼食前に総務部に行ってはみたが、結果は惨憺たるものだった。 「ああ、副業の件ですか? たまに相談受けるんですよね。そちらでの収入が一定金額以上になったら、確定申告などはご自身でしていただく事になりますが、基本的には大丈夫ですよ。念のため訊きますけど、どういったお仕事ですか?」  総務部で対応してくれた、お役所の事務員といった雰囲気を持つ生真面目そうな男性は、眼鏡の縁を持ち上げながらそう言った。 「まあ、その……ファッション雑誌のコラムのような所に、小さく写真が載るというか……一応、謝礼も出るということで」  ファッションモデルとして雑誌に掲載されますとは言えず、篠宮は曖昧に言葉を濁した。隣にいた結城が何か言いたそうな顔をするが、あえて無視を決め込む。 「そのくらいなら全然かまわないですよ。うちの会社、どっちが副業なのかと思うようなかたも結構いますからね。営業方面の部署の中にもいらっしゃるんじゃないですか。ええと、お名前はなんていったかなあ。あの、一月に入社された外国のかた……」 「経営戦略部の、ガードナー部長補佐ですか?」 「ああ、そうです。あのかたなんて、何冊も本を出版なさってるそうですよ」 「そうなんですか?」  驚いた篠宮は、彼らしくもなく大声で問い返した。 「ええ。ビジネス書はもちろん、ミステリー小説や恋愛小説……作品に合わせて、三つぐらいのペンネームを使い分けてるってお話でした。金額はお伺いしませんでしたが、文筆業のほうだけでもなかなかの収入らしいですよ。それがオッケーなんだから、雑誌にちょっと載るくらい、別に構わないでしょう」 「それは……そうですね」  背中に冷や汗を感じながら篠宮は呟いた。あのエリックが小説を書いて収入を得ているとは、今の今まで想像したこともなかった。  世の中、知れば知るほど奥が深いものだ。改めて、その思いを噛み締めずにはいられない。 「まあもちろん、何か問題になるようなことをしでかしたら、これから規則が変わっていく可能性はありますけど。とりあえず今の時点では、駄目だって言う理由はありませんね」 「はあ……」  呆気にとられたまま、なんとか礼だけを述べて、篠宮たちは総務部を後にした。

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