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自然な関係
「いやー、もう今回限りで勘弁してください。普段は見られない、雑誌の裏側が体験できて楽しかったけど……これからも続けるとなったら、きっと楽しい事ばっかりじゃないし。地味で堅実な会社員のほうが、結局は楽かなって思いました。はは」
結城が頭に手を当てて愛想笑いを浮かべる。そばで話を聞いていたユカリが、うんうんと大きくうなずいて同意を示した。
「それがいいですよ。お二人みたいな人は、モデルになんて絶対ならないでください。私の仕事がなくなっちゃいます」
「もう、ユカリちゃんてば。たしかに今回は、あんまり活躍の場がなかったかもしれないけど……もしお二人にモデルになってもらったら、来月以降はユカリちゃんの好きなお洋服を着せ放題よ?」
「あっ、そうか。それはいいですね」
ユカリがはたと手を打つ。結城が血相を変えて反論した。
「ちょっとちょっと! いいですねじゃありませんよ。篠宮さんがモデルなんかになったら、世界中の人がみんな惚れちゃうから駄目です。ただでさえ社内で大人気で困ってるのに」
いつから大人気になったんだと思いつつ、篠宮は横目で結城の顔を見つめた。たしかに結城と知り合ってから、人に話しかけられることが多くなった自覚はあるが、人気と言われてもまったく実感が湧かない。
「そうね……続けてほしいのは確かだけど、お二人の幸せのために諦めるわ。今回協力していただいたことで満足しなきゃね。また気が向いたら、いつでも連絡ちょうだい。ほら、安藤くんも最後にお礼言っといて」
可南子が隣にいた安藤を肘でつついて、別れの挨拶をするよう促す。少し考えてから、彼は言葉少なに呟いた。
「……撮影へのご協力ありがとうございました。お二人を撮る機会が、またあることを祈ってます」
低く抑えた声が静かに響く。その僅かに細めた眼から、彼が自分たちを祝福とまではいかないものの、ごく自然な関係として認めてくれていることが解った。
「じゃ、篠宮さんと結城さん。改めて、今日は本当にありがとうございました。レストランのほうは吉沢の名前で予約してて、行けば分かるようになってるから。もちろんお勘定は済ませてあるけど、飲み物の追加はご自身でお願いね。あ、これ。お店のショップカード。まあ道に迷うことはないと思うけど、念のために。はい」
彼女から名刺のような紙片を受け取ると、篠宮は困った顔で眼を伏せた。
「申し訳ありません、こんな風にお気遣いいただくなら、素直に謝礼を受け取っていたほうが良かったかもしれませんね」
「いいのいいの。私の個人的な我がままを聞いてもらったんだから。このくらいしなきゃ」
スタッフ三人に見送られ、篠宮たちはスタジオの外に出た。だいぶ日が長くなったのか、夕刻といえども空はまだ明るい。
「じゃあ、またねー!」
今日ここへ到着した時と同じように、可南子が千切れんばかりに手を振る。軽く会釈を返し、篠宮は結城の後について駐車場へと向かっていった。
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