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あるわけない

「いや……それはもちろん、すっ、好……」  頰が熱くなるのを自覚し、余計にうろたえて篠宮は口ごもった。たったひとこと言えばいいだけの話であるにも関わらず、眼の前の彼が魅力的であると感じれば感じるほど、言葉が出てこなくなってしまう。 「言えないの? しょーがないなあ……じゃ、身体に訊いてみよっか」  結城の瞳が、意地悪い光を宿してきらりと光る。その手が、いきなり篠宮の腰から下に伸びた。 「篠宮さん、こっちは正直だもんね。こうして可愛がるといつも、身体全部で俺のこと好きって言ってくれるでしょ。だから、こっちに訊いてみるよ」  運転席から身を乗り出し、結城は左腕を伸ばして篠宮の背中を抱き締めた。右手を両脚の間に置き、下から撫で上げるようにして身体の中心を刺激する。服の上から緩やかに撫でられるだけで、その部分はすぐに硬くなり熱を持ち始めた。 「結城。君っ、まさか……ここで」 「だって……昨日は、身体に跡がつくといけないからって、させてくれなかったじゃん。ここまで我慢したんだから褒めてよ」  篠宮に覆い被さるようにして、結城が助手席に身体を移す。あっという間にベルトを外すその器用さに、篠宮は舌を巻いた。 「馬鹿っ、誰かに見られたらどうするんだ」  眉をしかめて叱責するが、元よりそんなことで(くじ)けるような男ではない。下着と肌の間に手を突っ込み、結城は強引に狭間に指を伸ばしてきた。 「大丈夫だよ。車も人もほとんど通らないって、吉沢さんが言ってたでしょ。もし通ったとしても、暗いから中で何してるかなんて判らないよ」 「やっ……!」  結城の指先が、奥の(すぼ)まりに触れる。甘い予感が背すじを駆け抜け、篠宮は思わず声をあげた。 「やめっ、あっ……」  身をよじるたび、衣服が脱げて滑り落ちていく。露わになった自分の肌を見下ろし、篠宮は顔を紅くした。これでは抵抗しているのか誘っているのか判らない。 「待って……このままじゃ、車のなか汚しちゃうから」  荒い息と共に呟き、結城が肘置きの中から小さなポーチを取り出す。  ファスナーを開けると、そこには避妊具と、ハンドクリームのような細身のチューブが入っていた。おそらくチューブのほうは、行為の時に使う潤滑剤だろう。 「人の車に、なんて物を入れておくんだ」 「だって、これが無いせいで篠宮さんとエッチできないなんてことになったら困るもん」  ビニールを破って手早く避妊具を着けると、結城は篠宮にも同じ袋を手渡した。 「はい。篠宮さんも着けて」 「私も着けるのか」  「着けないと、座席に飛んじゃうかもしれないでしょ」  当然だとばかりに言い切り、結城がティッシュやハンカチを用意し始める。渡された袋を持ったまま、篠宮は困惑しきって眉根を寄せた。 「もしかして、着けたこと……ない?」  篠宮の様子に気づいた結城が、信じられないといった表情で口を開いた。 「あるわけないだろう」  篠宮は不機嫌な声で言い返した。そもそもそういう状況になったことがないのに、着けた経験などあるはずがない。 「ごめんごめん。俺が教えてあげるよ。いい? まずここの、先っぽのとこ押さえて空気を抜いてから……」  結城が手を添え、輪になった部分をくるくると伸ばして根元までかぶせる。横目で盗み見るように、篠宮は脚の付け根に視線を向けた。限界までそそり立ち、黒いゴムを着けた自分のものがひどく卑猥に見える。

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