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その言葉だけは
「やっぱ車ん中って狭いな……篠宮さん、後ろ向いてよ。シートに膝乗せて……そう、うつ伏せになって。後ろから挿れてあげる」
篠宮の胸許を支えながら、結城がシートを限界まで倒す。腹ばいになって腰を突き出したまま、篠宮は後部座席に手をついてバランスをとった。
「いい眺め……」
恍惚とした声で呟き、結城が人差し指と中指を重ねて滑り込ませる。たっぷりと潤滑剤をつけてあるためか、受け入れることに慣れた身体は、恋人の二本の指を簡単に飲み込んだ。
「結城っ……! そんな、いきなり」
「早くしないと、誰か来ちゃうかもしれないでしょ」
熱っぽい声で背後から囁かれるたび、腰の奥が淫らな刺激を欲しがってざわざわと蠢く。
口先だけで拒んでも、あっさり陥落してしまうのはいつもの事だ。だが今日はいくらなんでも、我ながら音をあげるのが早すぎる。この状況に興奮しているのだろうか。
「ごめん篠宮さん。も……挿 れちゃうよ」
労 わるように背中をひと撫でし、結城は背後からのしかかってきた。
「あっ……!」
まだ固さの残る隘路を押し広げ、反り返った切っ先が入り込んでくる。慣らすのに時間をかけていないせいか、いつもよりきつい。ただでさえ大きく張り出した先端が、格段に太く感じる。
「痛い?」
低い声で呻きながら座席を握り締める篠宮を見て、結城が心配そうに声をかけた。
「あっ、大丈夫……うっ」
くちびるを噛み締め、篠宮は必死に強がってみせた。口許を手でふさぎ声を抑えようとするが、微かな痛みを感じるたび、怯えたように腰が跳ねるのだけはどうすることもできない。
「ごめん、やっぱ痛いよね……いったん抜こうか?」
恋人の身を気遣って、結城が腰を引こうとする。彼を包む壁がびく、と震えた。
「馬鹿っ、抜くな、あっ……!」
声を出すことで、肩の力が一瞬だけ抜ける。内側の湿った粘膜が、進んで彼を受け入れようと蠢きだした。通り道にある膨らんだしこりを太い幹で押しつぶされ、思わず甘い声が漏れる。
「いやっ、あ、あ……!」
瞬く間に、痛みのすべてが快楽に変わっていく。自分の中が動いて彼の先端を捕らえ、奥へ奥へと引き入れているのが分かった。
「篠宮さん……感じてる? 身体、すごく熱くなってきたよ」
遠慮がちだった結城の腰遣いが、篠宮の身体の変化を感じて徐々に激しくなっていく。ふたつの荒い吐息が重なり、車内に響き渡った。
窓の外には黒い樹々と湖、そして静寂しかない。自分たち二人だけが世界から切り離され、この車に閉じ込められている。そんな錯覚に陥る。
「あ、ああっ、ん……結城」
返事の代わりに嬌声をあげ、篠宮は腰を揺すった。
恋人の硬くいきり立ったものが、最奥に届く。篠宮は固く歯を食いしばって快感に耐えた。ここを突かれるといつも、あっという間に達してしまう。彼の欲望を受け入れて、身も世もなく乱れるこの身体が恥でもあり、誇りでもあった。
愛しているからこんなにも感じるのか。それとも、これほどまでに感じさせてくれるから心奪われるのか。ふたつの問いが螺旋のように絡まり合い、どちらも正しい解なのだと本能が告げる。
「ああ……気持ちい……! 篠宮さんの身体、抱くたびに良くなってくよ……何度抱いても飽きない」
感極まった溜め息を漏らし、結城が耳許で優しく囁いた。その甘い響きが、蕩けきった身体をさらなる悦楽へと誘う。
「俺が篠宮さんのこと大好きな理由、もうひとつ教えてあげる。ここの具合が、すっごくいいからだよ。あったかくて柔らかくて、締まりも感度も最高……これ以上、俺にぴったりの名器なんてあるはずないよ」
「やっ、言うな……!」
結城がなぜこんなに一途に自分のことを想ってくれているのか。篠宮にとって、それはいまだに解けない疑問のひとつだった。
綺麗だから好き。可愛いから好き。運命の人だから好き。そんなふうに言われても、まったく実感が湧かない。だが身体の相性がいいから好きだという、その言葉だけは信じられた。
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