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幾夜もの記憶
『ね……お願い。言うこと聞いてくれないなら俺、今から車飛ばして篠宮さんのとこまで行っちゃうからね』
必殺の殺し文句『お願い』を耳にして、篠宮は抵抗を諦めた。そもそも好きな相手から愛していると言われ、求められているのに、拒むことなどできるわけがないのだ。溜め息をひとつつき、篠宮は自分の胸にそう言い訳をした。
「車なんか持ってないだろうが……」
「あ、気がついた? はは」
篠宮の鋭い指摘を聞き、結城は陽気な笑い声を上げた。
「仕方のない奴だな……早くしろ。牧村係長補佐が戻ってくる前に」
『解ってるよ。ドアはちゃんと閉まってる? 掛け布団は横に用意しといて。牧村さんが急に帰ってきたら、すぐ隠せるように。俺以外の男に、篠宮さんのエッチな身体見せるわけにはいかないもん』
「馬鹿。そんなことを言うくらいなら、最初から……」
『いい? ズボンはぜんぶ脱いで。明日も着るんでしょ? ベッドにタオル敷いて。その上に横になってよ』
文句を言いかける篠宮をさえぎって、結城が一方的に要求を突きつける。自信に満ちたその声でひとつひとつ下される命令を聞くうち、篠宮は自分の両脚の間に熱が集まってきていることに気がついた。
「あ……」
この声で囁かれ、抱かれた幾夜もの記憶が、無意識のうちに甦 って興奮をかきたてる。条件反射のようなものだ。
羞恥にひとり顔を赤くしながら、篠宮は自分のものを見下ろした。とりあえずこれが収まるまでは、彼の酔狂に付き合ってやるしかない。
『ベッドに横になったら、スマホは枕の上……耳のすぐそばに置いて。俺の声聞こえる?』
「あ……ああ」
『左手の中指を口に当てて……ゆっくり咥えて、濡らしてみてよ。右手は前のほうを握って。先っぽから透明なのが出てきたら、指の腹で、周りに塗り広げるようにするんだよ。前にやりかた教えたでしょ』
言われるまま、篠宮は自らの指を口に含んだ。右手を前に伸ばし、すでに兆しているものをそっと握りしめる。電話口から、微かに結城の吐息の音が聞こえた。
「んっ……」
身体の中心に甘い刺激を感じ、篠宮は指を咥えたまま低く呻いた。身体全体が、しっとりと熱を持って昂ってきているのが判る。
結城がさらに言葉を継いだ。
『ちゃんと指濡らした? そしたら脚開いて、篠宮さんの欲しいとこ触ってあげて』
「や……嫌だ」
当然のように続けられた命令に、篠宮は身をよじって抵抗した。自分でその部分に触れるのは抵抗がある。
『嘘。嫌じゃないよね。後ろ好きでしょ? ここ触られると、あっという間にメロメロになっちゃうんだよね。ほら、優しく撫でてあげて。欲しがってヒクヒクしてるんだから、触ってあげなきゃ可哀想だよ』
「う……」
泣きそうになりながら、篠宮は自分の狭間へと指を伸ばした。結城の言うとおり、その部分が刺激を求めてうねうねと動いている。
『ちゃんと撫でて可愛がってあげた? じゃあ……次は中に挿れてみて。ローションないから奥までは入らないと思うけど、ほんの少しだけ。俺の大事な篠宮さんに、痛い思いさせちゃ駄目だよ。俺の指だと思って……ゆっくりね』
優しく導く声を聞きながら、篠宮はゆっくりと指を進めた。
熱くなった肉の壁が、吸い付くように指先を包み込む。外側の環になった箇所は非常に狭く、指一本でもきついほどだ。
この中で、結城はどれほどの快楽を得ているのだろうか。あれほど夢中になっているからには、奥の部分の具合も悪くはないのだろう。自分の身体がいかに淫らにできているかを思い知り、篠宮は居たたまれない気持ちになった。
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