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いくら強がっても

『ね、篠宮さん。俺たち、もう付き合って半年以上たつでしょ。エッチもいっぱいしたけど、篠宮さんはどの体位が好きなの?』 「どっ、どのって……」  いきなり何を言い出すのか。篠宮がそう思って戸惑うと、結城は思いがけず真面目な声で話を続けた。 『恥ずかしがらないで教えてよ。どうやったら篠宮さんをもっと気持ち良くさせられるか、俺にとっては最重要って言ってもいいくらい大事なことなんだから。マンネリになるのは嫌だけど、自分の恋人がどの体位でいちばん感じるのか、そのくらいは知っておかないと』 「し……しかし」  そう呟いたきり、篠宮がなにも言えず押し黙る。結城はさらに声を高めて追及した。 『まあ篠宮さんは感度いいから、最終的にはどんな格好で挿れてもイッちゃうんだけどさ。でも、篠宮さんにもあるでしょ? 感じやすくて、好きな体位』 「いや……」  答えを渋って口ごもりながらも、篠宮は頭の片隅で牧村の存在を思い出した。あまり長引いては、同室の彼が帰ってきてしまう。 「私は、その……」 『ん?』 「ふっ、普通に、仰向けの……」 『正常位だね。どうしてそれが好き?』  無邪気ともいえる明るい声と共に、結城はさらに恥ずかしい質問をぶつけてきた。 「そっ、それは」 『教えてよ……ね?』  結城が甘く囁いて答えを促す。耳を撫でるその声を聞くと、身体の奥が痺れ、頭の中に霞がかかったようになった。 「あ、仰向けだと……力加減が楽にできるし、顔が……見えるから」  羞恥に声を震わせながら、篠宮は代表的な理由をふたつだけ述べた。本当は他にも様々な理由があるのだが、そんなことを今この場で口にできるわけがない。 『篠宮さん、俺の顔好き? 篠宮さんほどじゃないけど、俺もまあまあイケてるほうではあると思うんだよねー』  くすりと笑って、結城が自分の顔に対しての感想を訊いてくる。今さら何を言っているのかと、篠宮は呆れて眉間に皺を寄せた。  結城の顔の整いかたときたら『まあまあ』どころではない。顔の造作など整形でどうにでもなるだろうが、彼の場合は天然物だ。そのうえ、万人から好かれる愛嬌もある。道を歩いていてもスカウトされる事が少ないのは、これほどの逸材であれば、すでにどこかの事務所に所属しているだろうと思われるからだ。 「好き……だ」  ためらいつつも正直にそのことを口にすると、結城はえへへと緩みきった笑い声を立てた。 『へへへー。篠宮さん、俺のこと好きなんだ?』 「違う……! 君のことじゃない。君の顔は嫌いじゃないと言っただけだ」 『もー、照れちゃって。いくら強がっても、その声聞いたら、俺のこと大好きなのバレバレだよ?』 「人の話を聞け!」  篠宮が声を荒らげても、結城はまったく悪びれる様子がない。  人がわざわざ出張先から電話をしているのに、さっきからからかわれてばかりだ。おとなしく言うことを聞くのが馬鹿らしくなった篠宮は、とっさに脚を閉じて行為を中断しようとした。 『あっ! もう。駄目だよ篠宮さん、手ぇ離しちゃ』  どこかで見ているのかと思うほど絶妙なタイミングで、結城が自慰を続けるよう促す。吐息まじりの甘い声が耳をくすぐった。

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