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焦れったい思い

『ちゃんと可愛がってあげて。俺を気持ち良くしてくれる大事な場所は、特に念入りにね』 「……馬鹿」  淫らな囁きを聞き、中指をくわえこんだ部分が反射的にきゅっと締まる。そんな自分に呆れ、篠宮は静かに溜め息をついた。逆らえるわけがないのだ。自分は彼の、この強引なところにいちばん魅力を感じているのだから。 『どう? 勃ってきた? 後ろにも、太いの欲しくなってきたでしょ? 少し腰上げて……篠宮さんの好きな正常位で挿れてあげる』 「ばっ……馬鹿」  実際に肌を合わせているわけでもないのに、こんな要求をされるなど滑稽だ。そう思いながらも抵抗できず、篠宮は結城の求めに応じて腰を持ち上げた。 「挿れるよ」  結城が大きく息をつく。耳許を撫でる熱い吐息に、篠宮は肩を震わせた。 「あ……」  深呼吸し、現実に彼を受け入れる時を思って肩の力を抜く。本当に挿入された時の我を忘れるような快感ではなく、もどかしい、焦れったい思いが情欲をしだいに高めていった。 『俺も篠宮さんの顔見るの好き。向かい合ってゆっくり奥まで挿れてあげると、頬っぺたが紅くなって、眼がうるうるして……ああ……それ考えただけで、すげえ硬くなってきたよ』  結城の声が僅かに震えた。妄想の中にある彼のものが、彼の言葉に合わせて硬度を増していく。 『ね、篠宮さん……硬くなったアレで、奥のとこぐりぐりしてあげる。ここ大好きだよね? 先っぽ押しつけてとんとんって揺らしてあげると、いつも、中が嬉しそうにぎゅってしてくるもん』 「い、いや……」  羞恥に耐えきれず篠宮は首を左右に振った。彼の言葉が真実だと、いちばん解っているのはこの自分だ。結城のものは大きく上に反り返っていて、向かい合って奥まで挿れられると、緩く動いただけでも激しく突き上げられるような快感がある。篠宮が正常位を好きな理由のひとつだ。 「あ……あ、結城」  導かれるまま、体内に埋め込んだ指をさらに押し込み、右の手首をゆっくりと上下させる。身体の芯が熱くなり、快楽の予感が腰の奥を痺れさせた。 『篠宮さん。声、可愛い……もっと聞かせてよ』 「結城……んっ」  耳許に甘い声が響くたび、欲望がしだいに昂ぶってくる。 「ん……あっ」  キスしてほしい。唐突に、そんな不可能な願いが胸を焦がした。  いつものように髪を撫で、指先で耳に触れながら。頭を抱き、下からくちびるを押し上げて。角度を変え、舌を絡めて吐息を分かち合う、あの気が遠くなるようなキスをしてほしい。彼のくれる温もりを求める気持ちが、自分でも驚くほどの強さで胸から溢れ出し、止まらなくなる。 『ね、篠宮さん……顔、上に向けて。キスしてあげる』  間髪をおかず告げられた言葉に、篠宮は胸を熱くした。こんなに離れて、顔を見ることさえできなくても、自分が何を望んでいるか彼には解るのだ。 「んっ、ん……ああ」  くちびると舌の動く湿った音が、耳のすぐそばでぴちゃぴちゃと響く。二人が愛を交わす時に欠かせない、馴染み深いいつもの口接けだ。 『篠宮さんの中って、キスするときゅうって締まるよね……顔だって、あっという間にとろとろになっちゃうし。ほんとエッチだよね。今だって、太いので奥まで突いてほしくてたまんないでしょ?』  結城の淫らな囁きに、身体の奥の欲望が激しく渦巻き始める。全身がしっとりと汗ばみ、腰の中心が潤み始めた。 『……篠宮さんって、中出し好きだよね。なんであんなに好きなの?』 「な、なんでって……」  いきなり向けられた問いに、篠宮はうろたえて声を震わせた。そんなこと、答えられるわけがない。

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