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嗜虐の悦び

「篠宮さん……脚、開いて」  言いながら、結城が腰の下にクッションらしきものを入れてくる。やや強引に両脚を開かれたかと思うと、狭間の辺りに熱っぽい吐息を感じた。 「馬鹿……どこを見てるんだ」 「どこって……言ってほしいの? エッチだなあ」  結城が笑い声を立てる。空気が揺らぎ、篠宮はその僅かな刺激にも反射的に身悶えた。 「もう、篠宮さん。そんなに恥ずかしがってたら、余計いじめたくなっちゃうよ?」  声に嗜虐の悦びをにじませ、結城が双丘をさらに押し開いた。完全に空気にさらされた奥のすぼまりが、外気の冷たさに驚いたように固く閉じる。 「篠宮さんのここ、可愛い」  恍惚とした声をあげながらも、結城はまだその部分に触れようとはしなかった。おそらく、自分を焦らすためにわざと手を出さずにいるのだろう。そう気がついた篠宮は、身をよじって僅かな抵抗を試みた。 「だーめ。ちゃんと見せて。篠宮さんの可愛いとこ」  聞くのも恥ずかしいような甘ったるい声で囁くと、結城は手に力を込めて篠宮の体勢を元に戻した。  見えないにも関わらずいつもの癖で、篠宮は結城がいると思われる場所から顔をそむけた。視界が閉ざされていても、微かな風や体温で、本来人に見せるべきでない場所を覗き込まれているのがはっきりと分かる。 「そっ……そんな所が可愛いわけないだろう」 「えー、可愛いよ。お行儀良くきゅっと締まって……ね、舐めていい?」 「ばっ、馬鹿! やめろ」  さすがに容認しきれず、篠宮は思いきり腰を引いた。見られるだけでも耐え難いのに、さらに舌で触れられるなどいくらなんでも我慢できない。 「嫌なの? しょうがないなあ。じゃあ、ふーふーするだけで許してあげる」  しょうがないのはどっちだ。そう思った篠宮は次の瞬間、動揺して低く呻き声をあげた。切なく喘ぐような甘い吐息が、割り開いた間の部分に熱を込めて吹きつけられたのだ。 「うっ、あ」  急いで脚を閉じようとするが、いつの間にかがっちりと膝を押さえられ身動きが取れない。いつも結城を受け入れているその部分が、物欲しげにひくひくと蠢くのが見えてしまいそうだ。ある意味、舐められるより恥ずかしい。 「欲しくなってきた? でも、もうちょっとだけ待って」  ひときわ熱い吐息をふっと吹きかけると、結城はそのまま身体を前へ進めた。眼が見えない状態に少し慣れてきたのか、微かな風の流れで彼の動きがなんとなく分かってくる。 「篠宮さん……好き」  折り重なるように裸の胸を合わせ、結城がくちびるに軽いキスをする。すぐに顔を離し、彼は何を思ったか低い声で唐突に呟いた。 「ね、篠宮さん。俺を恋人に選んでくれてありがとう」 「なんだ急に……今さら何を言ってるんだ」 「だって。初めての時……無理やりだったじゃない。俺、あの件に関しては今でも後悔してるんだ。あんな目に遭わせた俺を許して、恋人として受け入れてくれた篠宮さんには、本当に感謝してるんだよ」  自らの過ちを激しく悔いる思いが、その声音から感じられる。篠宮は邪魔な目隠しを取ってしまいたくなった。結城がどんなつもりでこの話をわざわざ自分から蒸し返したのか、表情を確認できないのがもどかしい。 「まだそんな事を気に病んでるのか」 「あれを『そんな事』で片付けるのは篠宮さんくらいのもんだよ。普通だったら俺、警察に突き出されて当然なのに」 「馬鹿、私は男だぞ。警察へ行ったところで、部下の男性に犯されましたなんて言える訳ないだろう」 「違うよ。篠宮さんは優しいから、自分の受けた痛みよりも、そこまで思い詰めた俺の気持ちを第一に考えてくれたんだ」  篠宮さんは優しいから。結城の口にしたその言葉を、篠宮は胸の中で反芻した。冷たいだの無表情だのとさんざん言われ続けてきた自分を、そんな風に評したのは結城が初めてだ。

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