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小さな嘘

「敏感になってるね……可愛い」  結城が脚の間に膝を割り込ませてくる。皮膚に触れる感触から察するに、おそらく彼も全裸だ。いつの間に脱いだのかと一瞬思ったが、脚を絡めて肌を寄せ合ううちに、そんな事はどうでも良くなった。 「愛してる……大好きだよ」  なにか柔らかいものが、そっと口許をかすめる。結城のくちびるだと篠宮は直観した。自分は彼のくちびるしか知らないのだ。この感触を間違えるわけがない。 「可愛い……篠宮さん」 「んっ……結城」  前も見えないまま、必死に腕を回して彼を求める。くちびるをふさがれた瞬間、甘い疼きが微弱な電流のように、ぴりぴりと身体中を走り抜けた。 「ふっ、う……!」  達した直後と似たような感覚を残し、小さな波が去っていく。自分の身に何が起こったかも分からず、篠宮は恥じ入って身体を縮こまらせた。ただくちびるを触れるだけのキスで、爪先まで震えるほどに感じてしまったのだ。 「あーもう……甘イキしちゃった? ほんと感じやすいよね。でも、本番はこれからだよ」  結城の手のひらが、双玉をやわやわと揉みしだく。膝の辺りにキスが落とされたかと思うと、彼の指先がゆっくりと後孔に移動していった。 「痛くないように、ゆっくり柔らかくしてあげる。待っててね。今、少し温めるから」  かちり、とボトルを開けるような音がした。温めると言っていたのは、たぶん潤滑剤のことだろう。 「まずは指一本だよ」  身体が熱くなっているせいだろうか。人肌ではあってもどこか冷んやりとした感覚のローションが、後ろの窄まりにたっぷりと塗りつけられる。 「うっ……」  根元までゆっくりと指を埋め込まれ、篠宮は小さく呻いた。丸く盛り上がったしこりを優しく撫でられ、さらに甘い吐息が止まらなくなる。  篠宮は初めて結城と肌を重ねた時のことを思い出した。経験もないのにあんなに感じてしまったのは、身体の相性もさることながら、結城が執拗に中を探り感じるポイントを攻め立てたせいだ。 「次は二本」  いったん指が抜かれ、続いて二本の指先が肉の環をつまんで少しずつほぐしていく。彼を受け入れるため、素直に柔らかくなっていく自分の身体を感じて、篠宮は複雑な気持ちを覚えた。 「三本……キツいけど、そろそろ大丈夫だよね」  揃えた指を何度か前後させ、結城がまとめてそれを引き抜く。代わりに、今ではすっかり馴染み深くなった彼のものが押し当てられた。 「これを待ってたんでしょ」  一呼吸おいてから、結城が静かに腰を進める。指とは較べ物にならない、圧倒的な熱と質量を持ったものが入りこんできた。 「あっ、あ……!」  微かな痛みに、篠宮は思わず腰をよじった。内側の壁全体が、恋人の訪れを待ち望んでぴくぴくと震える。 「ごめん、痛かった?」 「いや……大丈夫だ」  痛いと言ったら、結城はきっと手加減してしまうだろう。そのことに対する恐れが、篠宮に罪のない小さな嘘をつかせた。  快感に眉を寄せながら、篠宮は頭の隅で考えた。どう伝えれば彼に解ってもらえるのだろうか。その痛みこそが快楽なのだと。 「いや、あっ……ん、んんっ、結城」  ローションのぬめりを借りて、恋人のものが奥へと奥へと進んでくる。目隠しのせいで感度が高まっているのか、挿入されただけで気を失いそうな快感が生まれた。 「ナカ、熱っ……やばいこれ、最短記録になっちゃいそう」  おどけたように言い、結城が腰を前後し始める。それだけで達してしまいそうになり、篠宮は悲鳴をあげた。 「いっ、いや……あ、結城」 「ああっ、その色っぽい声……たまんないよ」  結城が満足げな声を出す。  余裕たっぷりの彼が急に憎らしくなり、篠宮は結城の肩にしがみついたまま腰を揺らした。あるいは、いつまで経っても初々しいなどと言われたことが微妙に気に障っていたのかもしれない。その気になれば、自分だって結城が我を忘れるくらい翻弄することができるはずだ。 「結城、い……あ、ああっ」  中の粘膜が彼に吸い付き、快楽を求めて淫らに蠢く。それだけでは飽き足らず、篠宮はさらに身体を密着させて根元から搾り取ろうとした。

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