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そういうとこが大好き

「とんでもない。褒めてるんだよ。俺、篠宮さんのそういうとこが大好き」 「なっ……」  思いがけないタイミングで大好きと言われ、篠宮は顔を赤らめた。恥ずかしさを誤魔化すため、顔を背けて、手にした紅い実を乱暴に一口かじり取る。  中まで紅いその果実を噛んだ途端、口の中に鮮烈な甘酸っぱさが広がった。  かなり酸っぱいな。そう思う間に、周りの水飴がゆっくりと溶け、最初に感じた酸味を徐々に和らげていく。値段が高いことは否めないが、祭りの楽しい雰囲気も手伝って、どこか癖になりそうな味だ。 「……美味しい」  篠宮が素直に感想を述べると、結城は興味を引かれた様子で割り箸の先を見つめた。 「ほんと? 俺にもちょうだい」  手許のビールを飲み干してから、彼は篠宮の持つ食べかけの実に大胆にかぶりついた。 「う……」  たちまちのうちに眉をしかめ、結城がなんとも形容しがたい表情を見せる。子供の頃に泣いたという話を思い出し、篠宮は苦笑した。 「やはり、トラウマは克服できなかったか」 「ううん。思ったより大丈夫だったけど……ビールに合わない」 「当たり前だ」  日本酒か焼酎なら意外と合うかもしれない。そう思いながら、篠宮は固い梅干しのような果実にがりりと歯を当てた。種は抜いてあるようで、食べ終わった後には割り箸一本だけが残る。 「篠宮さん、舌見せて」  言われるままに舌を出すと、結城は愉快そうに眼を細めた。 「あはは。真っ赤っか!」  太陽よりも眩しいその笑顔を、まともに見ることなどとてもできない。困り果てて眼をそむけながら、篠宮は手許に残ったごみを彼の手に押しつけた。  しかし、篠宮が羞恥に(さいな)まれたのはほんの僅かの間だった。結城がいきなり、通りの向こうを指差してこう叫んだのだ。 「あ! ねえ篠宮さん、射的があるよ!」  受け取ったごみを焼きそばの袋に突っ込むと、結城は(せわ)しなく駆け出した。 「落ち着きのない奴だな……」  文句を言いながらも、篠宮は彼を追って屋台の前まで行ってみた。甚平を着た小学生たちに混じって、結城が景品の並んだ棚を食い入るように見ている。まったくもって、大人げのかけらもない。 「よお、お兄ちゃん。ちょっと寄ってってよ」  角刈りに鉢巻きを巻いた屋台の主人が、良いカモが来たとばかりに結城に声をかけた。 「ねえねえ篠宮さん、プレイフォースライトのマットブラックがあるよ! あれ欲しい!」 「プレイフォース……?」  結城に袖を引かれ、篠宮は一等の目玉賞品らしき景品を見つめた。片手で持てるくらいの白い箱に、なにやら電子機器のような物の写真が大きく印刷してある。

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