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祭りの余韻

「じゃあ、また明日ね!」  道の端で、中学生くらいの少女たちがお互いに手を振りあっている。  いくつかの屋台は、食材が底を尽きたのかすでに片付けを始めていた。祭りもそろそろ終わりの時間なのだろう。 「……歩くのにも疲れたし、そろそろ帰ろっか」  結城の言葉を聞いて、篠宮は初めて彼の言うとおりに疲れを感じた。 「ああ、そうだな」  夢のように過ぎていった華やかな時を、篠宮は微笑と共に思い返した。もう何杯目か判らないビールを飲みながら、屋台の間を結城と一緒に端から端まで練り歩いた。焼きそばにあんず飴に射的、さらにはたこ焼きにフランクフルトに焼き鳥の屋台を回ったとなれば、祭りの楽しさはほぼ満喫したといっていいだろう。  結城はすっかり味をしめて、ビールを買う時は女性が店番をしている屋台ばかり狙っていた。他の客には申し訳ないが、普通に買うより三割増しくらいにはなっていたと思う。  途中に休みを入れつつも、五、六杯は飲んだだろうか。篠宮はこの程度飲んだところでどうということもなかったが、結城はかなり酔っているようだった。 「あ、ラムネ売ってる。ねえ篠宮さん、最後にラムネ買ってきていい?」 「好きにしろ」 「はーい」  篠宮の許しを得て、結城が飲み物の屋台に近づいていく。この祭りでいくら使ったのかと思い、篠宮は苦笑いした。篠宮が止めなければ、財布に入っていた現金をすべて使ってしまっていただろう。普段は意外にも倹約家なのに、デートやプレゼントとなると、財布の紐が緩むどころかどこかへ行ってしまうのだ。 「お待たせー」  ラムネの瓶を片手に、結城が戻ってきた。  あとは帰るだけだ。そう思う篠宮の胸を、一抹の寂しさがよぎった。このまま帰りたくない。もう少し彼と二人で、祭りの余韻を楽しんでいたい。説明のつかないそんな感情が、心の奥で渦巻き始める。  篠宮の胸の内を読んだかのように、結城が近くにある歩道橋を指差した。 「この時間になると風も少し涼しくなってきたね。ね、篠宮さん。あの上でちょっと休もうか。さっきのラムネ飲みながら酔い醒まししたい」 「……あれだけ飲んでおいて、階段なんて昇れるのか」  内心では彼の言葉に従いたいと思いつつも、篠宮はあえて気持ちを抑えて真っ当な答えを返した。 「昇れるよ……あ、いや、昇れません! 俺、酔っ払ってるもん。篠宮さん、肩貸してよぉ」  結城が甘えた声でしなだれかかってくる。篠宮は改めて結城の様子を観察した。顔は赤く、口調もいつもより舌足らずな感じだが、足取りはしっかりしている。泥酔したふりをしていることは明白だ。

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