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明るい星々
「いや……風呂は後でもいいんだ。ただその……ちょっとばかり、困るというか」
「今夜はその気になれない? 長旅で疲れたから、気分が乗らないかな?」
円を描くように後頭部を撫で、結城が頰にキスを繰り返す。心地好い愛撫には逆らえず、篠宮はうなだれたまま微かに肩をすくめた。
「嫌というわけでは……ただ……」
「ただ?」
鸚鵡返しに呟き、結城がにやりと笑う。おそらく持ち前の勘の良さで、篠宮の心の内を読み取ったのだろう。口許を見なくても、声だけで判る意地の悪い笑みだ。
「はいはい、分かってるよ。俺とのエッチが気持ち良すぎて、朝起きられないのが困るんでしょ」
「ばっ……馬鹿」
「図星だね」
してやったりといった様子で顔を綻ばせ、結城は篠宮の髪を指先でそっと梳いた。
「うーん……まあ、今日くらいは我慢するよ。篠宮さんも疲れてると思うし。せっかく来たのに、寝過ごしちゃつまらないもんね」
朗らかに笑った結城が、不意に窓の外に眼を向ける。いくら日没が遅いとはいえ、さすがにこの時間になると空には闇が迫ってきていた。
「あ、星が出てるよ」
そう言われて、篠宮は結城の指差す方向に視線を移した。暮れかけた空に明るい星々が輝き、天の川のようにぼうっと霞んでいるのが見える。
「ね。気分変えて、ベランダに出てみない? あったかいコーヒー飲みながら、ベンチに座って星でも見ようよ。で、飲み終わったら、ちゃっちゃとお風呂に入って寝る。それでいい?」
返事も聞かぬうちに、結城がさっさとキッチンに向かってコーヒーを淹れ始める。
軽く苦笑してから、篠宮はベランダに続く窓を開けた。甘く情熱的な夜にも魅力は感じるが、たまには星空を眺めながら、恋人らしく語り合うのも悪くはない。
外へ足を踏み出した途端、八月とは思えない風が涼やかに頰を過ぎた。
注意深く歩を進め、篠宮はベランダに降り立った。木で組まれたデッキの上に、大きなテーブルとベンチが置かれている。柵の向こうには、なだらかな丘と野原が遥か向こうまで続いていた。街灯などはもちろんないが、降り注ぐ星の光で、辺りは比較的明るく見える。
天気の良い日には、ここで食事をとることもできるのだろう。とりあえずベンチに腰掛けながらそんなことを考えていると、唐突に背後の窓ががらりと開く音がした。
「はい、お待たせー」
芳しい香りと共に、結城がコーヒーの載った盆をテーブルに置く。続いて、何かふわりとした大きな布を頭から被せられた。寝るときに使う毛布のようだ。
「はい。ちゃんと掛けて、あったかくしてて。俺の大事な篠宮さんが、風邪ひいちゃったら大変だからね」
寄り添うように隣に座り、結城は自らも並んで毛布にくるまった。
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