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宝石をちりばめたような

「綺麗だね、星」 「ああ」  コーヒーを口に運びながら、篠宮は心の底から同意した。星の輝きで満たされた天の(おもて)は、いつも見ている夜空とはまるで違う。ここが本当に同じ地球の上なのかと、疑ってしまうほどだ。  もし自分が詩人だったら、この星空を表すに相応しい言葉がきっと見つかっただろう。そう感じて、篠宮は歯がゆい思いで夜空を見上げた。宝石を散りばめたような。そんな陳腐な表現しか出てこないのがもどかしい。 「篠宮さん。今日……ごめんね」  不意に沈んだ声を出し、結城がぽつりと呟く。一心に空を見ていた篠宮は、その言葉に驚いて隣に眼を向けた。 「なんの話だ。謝られるようなことは何もなかったぞ」 「リンダが言ってた話だよ。俺が学生の頃、いろんな女の子と付き合ってたって話。別に深い仲ではなかったけど……篠宮さん、傷ついたんじゃないかと思って」 「そんなことはない。あのとき言っただろう。過去にどんな付き合いがあったか知らないが、今の君は私だけを想ってくれているんだ。私と出逢う前の過去にまで嫉妬するなんて、馬鹿馬鹿しいだろう。気にならないと言えば嘘になるが……別に、傷ついてなんていない」  何よりも自分を納得させるために、篠宮は一気にまくし立てた。結城の瞳が、疑うような光を宿して篠宮を見つめ返す。 「嘘。篠宮さん、顔見たら丸わかりだもん。俺が他の女の子と付き合ってたって聞いた瞬間、篠宮さん……ぎゅってくちびる噛んで、悲しそうな顔してた。そんな顔させたのが俺だと思ったら、本当に(つら)かった。もうあんな思いはさせないよ。約束する」  真摯な声でそう告げ、結城は座ったまま篠宮の腰を抱き寄せた。 「篠宮さんと出逢う前の俺ってさ。別に、人生に目的とか無かったんだよね。やりたい事も特になかったし、何もしなくても、そこそこ女の子にはモテたし。親父はいちおう大会社の社長だから、金に困っても最終的にはなんとかなるだろうしさ。適当に働いて適当に遊んで、なんとなく楽しく生きていけたら、それでいいかなって思ってた。女の子たちと次々付き合って別れてたのも、その頃だよ。なんていうか、誰と付き合っても本気になれなくて……恋愛ってこんなものかなって、解った気になってた」  結城の告白を聞き、篠宮は眼を伏せて考えこんだ。彼のように要領の良い人間は、本当に自分のしたいことがかえって見つからないのかもしれない。器用貧乏、という言葉が頭に浮かんだ。

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