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二人は必ず結ばれる
今までの話の流れから、篠宮は結城の内心を推し量った。おそらく、若かったとはいえ軽い気持ちで複数の女性と付き合ったことを、今になって後悔しているのだろう。
「まだ落ち込んでるのか。いつもの元気はどうした」
結城の顔を覗きこみ、篠宮は静かな声で探りを入れた。困ったようにゆがめた唇から、予想どおりの答えが返ってくる。
「だって……篠宮さんをいちばん幸せにしたいと思ってるのは俺なのに、よりによってその俺が、篠宮さんを悲しませちゃうなんて……落ち込みもするよ」
「そこまで大袈裟な話でもないだろう。私だって、過ぎたことをいつまでも引きずって、君を不愉快にさせるつもりはない。君が何人の女性と付き合っていたのか知らないが、私と出逢う前の話だ。そんなに気に病むことはない」
「でも……もし俺と篠宮さんがもっと早く出逢ってたら、俺が、好きでもない女の子たちと付き合うこともなかったわけでしょ?」
「それは、まあ……そうかもしれないが」
出逢いさえすれば、二人は必ず結ばれる。そのことを微塵も疑わない結城の言葉に、篠宮は気恥ずかしさを感じて顔を赤らめた。
「……なんかさ。リンダたちが、羨ましいな」
うつむいたまま、結城が小さく呟いた。
「羨ましい……?」
「うん。羨ましいよ」
迷いのない答えが即座に返ってくる。ここの管理人だという彼女たちのことを、篠宮は頭の隅で思い返してみた。
まだ知り合って間もないが、彼女たちが異性や同性などという枠を越えて、心を通わせていることは感じ取れる。とはいえ、愛情の深さと睦まじさなら、自分たちだって負けてはいないはずだ。結城が羨ましいなどと口にする理由が分からない。
「リンダってさ。ああ見えて、実は良いとこのお嬢様なんだよね。リンダってのも本名じゃないんだ。本当は、アデライードメアリーなんとかかんとかっていう、長ったらしい名前。アンジーはそのお屋敷の、乳母の娘なんだ。住み込みで働いてたメイドの中に、ちょうど奥様と同じ時期に子供ができた人がいてさ。俺もよく解んないんだけど、昔ながらのお屋敷の奥様って、自分じゃ子育てしないもんなんでしょ? まあそんな経緯で、そのメイドさんが乳母に取り立てられたんだよね」
着古したシャツにジーンズ姿だったリンダが、実は旧家のお嬢様だと聞いて、篠宮は驚きに眼を丸くした。自分の子を乳母に育てさせるなど、いつの時代の話なのかと思うが、古くから続く由緒正しい家では未だにそういった慣習が幅をきかせているのかもしれない。
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