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まだまだ子供
「別に、早く出逢えば良いというわけでもないだろう。知り合った時期で優劣が決まるわけじゃない」
「そりゃそうだけどさ。もしもっと早く出逢ってたら、俺が女の子たちと遊びで付き合うこともなかったし……その話を聞いて、篠宮さんが傷つくこともなかったのに」
「傷ついてなんていないと言っているじゃないか。自惚れるのも程々にしろ」
結城の頭に手を伸ばし、篠宮はその柔らかな髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。呆気に取られた様子の彼にそっとくちびるを近づけ、一瞬だけキスをする。すぐに顔を離し、篠宮は軽い溜め息と共に微笑んでみせた。
「初めてだとか何番目だとか、そんなことに意味はない。最後に選んでもらえたら、それがいちばん意味のあることだろう」
「やっぱ篠宮さんって大人だな……そうだね。過ぎたことを気にしても仕方ないか。他ならぬ篠宮さんが、水に流すって言ってくれてるんだもの」
眉を寄せて、結城は困ったような笑みを見せた。あと一週間ほどで二十四になるはずだが、その眼元にはどこかあどけなさが残っている。
まだまだ子供だな。そう感じた次の瞬間、篠宮はふと思いついて口を開いた。
「今のうちに訊いておくが。隠し子なんて居ないだろうな。だとしたら話は別だぞ」
「ないない、それは絶対ない! 俺、それだけはきっちりしてたから!」
隠し子などと言われたことが心外だったのか、結城は血相を変えて否定した。
「ね、ねえ篠宮さん。この話やめない? せっかく二人きりになったのに、元カノがどうとか隠し子は居るかとか……そんなこと話してもつまんないじゃない。ね、ね?」
「何を言っているんだ。元はといえば、君が話を蒸し返したんだろう」
「そうだっけ? あ……あはは」
「誤魔化そうとするところが怪しいな。まだ何かあるんじゃないか。今のうちに白状しておいたほうがいいぞ。こういう事ははっきりしておくべきだ」
「な、何にもないって!」
「本当か?」
「う……」
篠宮が思いきり睨みつけると、結城は観念したように口を開いた。
「……馬鹿にしない?」
「馬鹿の一言くらい、いつも言われ慣れてるじゃないか。いいから話してみろ」
恋人には言いづらいことで、なおかつ馬鹿にされそうな話とはなんなのか。柄にもなく好奇心に駆られて、篠宮はぐいと身を乗り出した。
「その……俺の初体験の時の話なんだけど」
結城が申し訳なさそうに口を開いた。
「……何があったんだ」
初体験という言葉を聞き、ちりちりとした痛みを胸の奥に感じる。だが篠宮は、ここは受け流すべきだと鋼の自制心で自らを律した。自分が初めての相手ではない以上、他の誰かとそういう経験をしたというのは、至極当然のことだ。
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