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白いシャツがぴったり
『白では不都合でしょうか?』
『いえ。不都合と言うわけではないけど……』
眉間の辺りに複雑な表情を浮かべ、アンジーが語尾を濁す。結城が横から口を挟んだ。
『でも俺、篠宮さんにはやっぱり白いシャツがぴったりだと思うんだよね。篠宮さんって、白がほんと似合うからさ』
『たしかに似合ってるけど……もっと濃い色のほうが良いんじゃない? 汚れたら目立つでしょ』
そう言って彼女は、篠宮と結城の服装を見較べた。篠宮は真新しい白いシャツだが、結城は濃緑色のサマーセーターを着ている。たしかに結城の服のほうが、汚れは目立たないといえるだろう。
別に白という色に問題があるわけではなく、単に汚れを気にしていただけだったのか。ようやく得心がいって、篠宮はほっと胸を撫で下ろした。
「汚れるといえば……そういえば、レジャーシート持ってこなかったな。無くてもいいかと思ったんだけど、やっぱりあったほうが何かと便利だったかも」
篠宮にちらりと眼を向け、結城が独り言のように小声で呟く。アンジーがその中の一言に反応した。
『レジャー・シート……? ああ、ピクニックマットのことかしら。それならうちにあるわよ。持ってきましょうか?』
『いやいや、また往復してもらうのは申し訳なさすぎるよ。お弁当は、そこらへんの岩にでも座って食べるから大丈夫。気を遣ってくれてありがと、アンジー』
『でもその白いシャツ、見たところ下ろしたてでしょ? 二人でピクニックなんかに行ったら、絶対に汚れるわよ。もったいないわ』
『ま、汚れたら洗えばいいよ。その時はその時。運悪く染みになっちゃうかもしれないけど、それも旅の記念だよね』
『旅の記念ねえ……』
結城の言葉を聞いて、彼女はなぜか意味深な笑みを浮かべた。
『まあ良いわ。あなたたちがそれで構わないなら。ふふ』
馬の鐙 に片足を掛け、彼女は軽々と鞍に飛び乗った。きっちり整えられた服装と相まって、惚れ惚れするような乗馬姿だ。リンダが彼女のどこに惹かれたのか解るような気もする。
『じゃあ、また夕方にね。美味しいビーフシチューとスモークサーモンのサラダ、デザートにはアップルコンポートを用意して待ってるわ。それじゃあ私は退散するから、夕方まで、誰にも邪魔されない二人きりの時間を楽しんでね』
『言われなくてもそうするよ。アンジー、わざわざシャンパン持ってきてくれてありがと。また後でね』
『ええ』
馬の腹に踵 を当て、彼女は巧みに手綱を操って首の向きを変えた。
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