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ウエディングマーチ

 ふさふさとした美しい馬の尻尾が、機嫌の良さを表すように揺れる。軽く走り出したかと思うと、その姿はあっという間に丘の向こうに消えていった。 「カッコいいなー。ねえ篠宮さん。俺があんな風に馬に乗ってたら、もういちど惚れ直しちゃったりしない? 俺、乗馬習おうかな。白い馬に乗って、お姫様を迎えに行って……手の甲にキスしてプロポーズするんだ。もうその瞬間に、ウエディングマーチが流れ出しそうじゃない? ああ……いいなあ。お姫様と結婚」 「寝言は寝てから言ってくれ……」  お姫様とは誰なのか、今さら訊く気にもなれない。溜め息をつき、篠宮は彼方にある緑の尾根から、自分のすぐ隣に視線を移した。  正面から見るとやや幼さの残る甘い顔立ちだが、横顔はすっきりとして男らしく引き締まっている。程よく細身で均整のとれたその身体は、たしかに乗馬などが似合いそうな感じだ。  馬上にいる結城の姿を想像して、一瞬ときめいてしまう。恥ずかしさを誤魔化すため、篠宮は咳払いをしながら手で口許を隠した。  また俺のこと考えてたでしょ。いつもならそう揶揄(からか)われるところだが、今回は結城がまだおとぎ話の夢に浸っていたためか、どうにか気づかれずに済んだ。 「……おっと。サンドイッチ用意してる途中だった」  急に思い出したように振り返り、結城が開きっぱなしのドアから部屋の中を見る。篠宮はつられて顔を上げた。そういえば、自分もまだ朝食を食べ終えていなかった。 「えへへー。篠宮さん、朝ごはん食べたら散歩に行こうよ。シャンパン持って。ね?」  当然のごとく篠宮の手を握り、結城が早く朝食を済ませるよう促す。ここに来てから人目を気にする必要がないせいか、何かにつけて恋人と手をつなぐのが、結城の中ではすっかり習慣になってしまったらしい。  日本に帰った後で、ついうっかりこの癖が出なければ良いが。そんな懸念がふと胸をよぎる。握った手の温かさを心地よく感じながら、篠宮は結城の後について再び室内へと戻っていった。  コテージから三十分ほど歩くと、周りに草木の生い茂る、見るからに涼しげな小川のほとりにたどり着いた。 「シャンパン、ここに浸けとこうか」  ひときわ大きな樹の陰を選び、結城は酒瓶を取り出して流れる水に浸した。ここなら、時間が経って太陽の位置が変わっても、直射日光に晒されることはないだろう。 「よーし、準備オッケー! じゃ、遊ぼっか」  背負ってきたリュックを木陰に置き、結城が楽しそうに篠宮に笑いかける。

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