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シャボン玉
「遊ぶって……何をするんだ」
不思議に思って、篠宮はきょろきょろと周りを見渡した。近くに小川が流れているだけで、あとはどこを見ても野原と樹々しかない。こんな所で、たった二人でどう遊べるというのか。篠宮には見当もつかなかった。
「へへへ……実はねえ」
何か企んでいる様子で、結城は地面に置いたリュックの中を手で探った。
「じゃーん!」
大袈裟な掛け声と共に、結城は小さなピンク色の容器と、先が広がった棒のようなものを取り出した。それが何なのか、篠宮はひとめ見て思い出した。先月結城と祭りに行った時に、射的の景品として受け取ったシャボン玉のセットだ。
「どうしてこれがここに……まさか、わざわざ日本から持ってきたのか?」
「だって。篠宮さん、結局恥ずかしがって、やってくれなかったじゃん? ここなら本当に誰もいないし、気兼ねする必要ないよ」
「それは……そうかもしれないが」
頭の中で、篠宮は先月の出来事を思い出した。たしか、あの祭りに行った次の週だっただろうか。快晴の日だったこともあってか、結城から、公園に行ってシャボン玉をしようと誘われた。
篠宮のマンションの近くには、子供が駆け回って遊べる広場や、バーベキュー施設を備えた大きな公園がある。誰に迷惑がかかるわけでもなく、シャボン玉をするにはもってこいの場所だ。
せっかく一緒に行こうと言ってくれているのに、断るのも心苦しい。そう思いつつも、篠宮は素直にうなずくことができなかった。結城もあえて無理に誘うことはせず、その話は結局流れてしまった。
仕方ない、と篠宮は自分で自分の心を慰めていた。その公園は、近所の憩いの場になっているのはもちろんのこと、休みの日ともなればわざわざ電車を使って訪れる人も少なくない。知り合いに見られるかもしれないと思うと、どうしても勇気が出なかったのだ。
「はい、篠宮さん。吹いてみて」
容器の中の液をつけ、結城が篠宮にストローの吹き口を向ける。言われるまま、篠宮は恐る恐る筒の根元にくちびるを当てた。
ぷしゅうという間抜けな音と共に、先端から膨らまなかった石鹸液の雫が落ちる。憮然とした顔で、篠宮は雫が落ちた先の地面を見つめた。子供の遊びかと思っていたが、意外に難しい。
困ったように笑いながら、結城は再び石鹸液を付け直した。
「そんなに怖がらなくてもいいから。もうちょっと強く吹いて」
「強く……」
結城のアドバイスを聞いて、少しだけ吹く力を強める。ストローの先端から、いくつもの泡の球がするすると飛び出し、宙に舞っていった。
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