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灼熱の炎
「あっ……ん」
思わず洩れた甘い声に、結城が調律師のように耳を傾ける。一見こんな場面にはそぐわないような、その真剣な表情を、篠宮は感慨深い思いで眺めた。自分の欲望に忠実なようでいながら、結城は恋人がその行為で共に快感を得ているか、注意深く見極めることを決して忘れない。
首を回し、篠宮は傍らに落ちた潤滑剤の空袋に眼を向けた。単に自分が満足したいだけなら、わざわざこんな物を用意する必要はないはずだ。ムードなどどうでもいい。どんな時でも恋人の身体を気遣ってくれる、そんな彼を愛しいと思った。
「そろそろ大丈夫かな。挿れるよ……いい?」
揃えた指が引き抜かれ、代わりに熱いものが押し当てられる。柔らかく濡れそぼったその部分が、淫らに口を開けて彼を飲み込もうと動き始めた。
「今さら何を訊いてるんだ……」
煽るように腰を突き出しながら、今ここでやめてくれと言ったら、彼はやめてくれるのだろうかと考える。だが、そのやり取りを現実に試してみる気にはなれなかった。こんな状態で放り出されたのでは、自分のほうが参ってしまう。
「ほら、入ってくよ……気持ちいい?」
硬く張り詰めた彼のものが、狭い道を徐々に広げていく。内側を彼の形に造り替えられる、この瞬間がいつも気を失いそうなほどに心地好い。
「いっ、あ……気持ちいい」
ここが野外だということも忘れ、篠宮は夢中で結城の肩に腕を回した。奥を軽く小突くように刺激されると、腰が勝手に跳ね上がる。
「俺も気持ちいいよ……! 明るい所で見る篠宮さんの身体、本当に綺麗だ。中もすごく締まって……最高だよ」
「んっ、あ……結城」
潤んだ瞳を上げ、篠宮は自分に覆いかぶさる結城の姿を見つめた。男らしく張り出した肩の向こうに、光り輝く太陽が見える。茶色がかった彼の髪が、陽の光で黄金色に透けて見えた。
「凄い、めちゃめちゃ吸いついてくる……ああ……! 愛してるよ、篠宮さん」
結城が篠宮のシャツの裾をたくし上げ、胸許をそっと撫でる。身体中に電気が走る感覚と共に、腰の辺りがじわじわと熱くなっていった。先程まで暖かく穏やかだった陽射しが、急に灼熱の炎に変わったような錯覚にとらわれる。
「あ、んうっ、結城……いっ」
最奥まで貫かれる快感に我を忘れ、篠宮は高く声をあげた。大きく抜き差しされるたびに、頭の中が白く霞んでいく。
「愛してるよ……篠宮さん」
甘く掠れた囁きを聞き、篠宮は細く眼を開いた。日輪を背負った結城が、立ち昇る紅炎のようにまばゆく輝いている。
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