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同じ気持ち
「俺たちが何してたか、バレバレじゃん」
結城が決まり悪そうに笑う。アンジーが白いシャツを見て何か言いたそうな顔をしていたのは、こうなることを予期していたからなのだろうか。だとしたら、恥ずかしすぎて彼女に合わせる顔がない。
篠宮は赤面してうつむいた。通りがかった兎には一部始終を目撃され、背中にはいかにも寝転んで情事に耽っていましたとばかりに、草の汁が一面に付いている。いくら恋人と過ごしてそういう雰囲気になったとしても、やはり愛の行為というものは密室で秘して行うべきものだと、篠宮は改めて心に刻んだ。
「篠宮さん!」
唐突に声をあげ、結城は篠宮の身体に抱きついて再び上半身を押し倒した。
「馬鹿、やめろ」
わざと怒った声を出してみるものの、なぜか本気で抵抗できない。暖かい陽射しの下、草の上に横たわり大自然の息吹に身を任せるのは、今までに経験のない心地良さだった。
「余計に汚れるじゃないか」
「いいじゃん。もう、ぜんぶ緑色に染めちゃおうよ」
篠宮の腕を草の上に押しつけ、結城は静かに囁きかけた。
「……ね?」
とろけるような優しい声音に、頭の芯がぼうっと霞む。何も言わず、篠宮は視線だけでそっと答えを返した。たしかに、今さら汚れを気にしたところでどうにもならない。いま二人がこうして一緒に居られるということに較べたら、服に付いた染みなんて、取るに足らない些細な問題だ。
「……愛してるよ、篠宮さん」
恋人の、やや厚みのある形の良いくちびるを篠宮はじっと見つめた。結城は絶対に愛の言葉を出し惜しみしない。暇さえあれば好きだと囁き、疑う余地もないほど真摯に、ひたむきに愛情を示してくれる。それを煩わしいと感じないのは、きっと自分も同じ気持ちだからなのだろう。
太陽と緑と土の香りが鼻先をかすめる。すぐそばには、この世の誰よりも愛しい、自分だけに変わらぬ愛を誓ってくれる恋人がいる。
くちびるがゆっくりと近づいてきた。
この蜜月がずっと終わらなければいい。先ほど結城が言っていた言葉を思い出しながら、篠宮は軽く眼を閉じてその口接けを受けた。
いったんコテージに帰り、使ったグラスを洗ったり明日の着替えを用意したりと、細かな用事を片付ける。結城が淹れてくれた紅茶を飲みながらくつろぐうち、アンジーと約束した夕食の時間が近づいてきた。
「昼飯の時は、体力はあるだなんて強がりを言ったが……あれだけ歩き回ったせいか、この時間になるとさすがに疲れが出てきたな」
「そうだね。ここは無理せず、文明の利器のお世話になろうか」
結城が一も二もなくうなずき、車を出しに行く。口には出さなかったが、実のところ彼も疲れを感じていたらしい。さすがに科学の発展の賜物と言うべきか、丘の間を抜けて数分走っただけで、管理人夫婦の住む家はすぐに樹々の間から姿を現した。
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