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きっと明日も
『まあ、カナトたちもわざわざ遠くから来てくれたんですものね。ここはひとつ、お嬢様が最大級にお勧めする特製ビーフシチューを味わってもらうべきかしら。さ、お二人とも中に入って。テーブルセッティングがいま終わったとこなの』
アンジーが扉を大きく開け、篠宮たちを部屋へ招き入れようとする。その視線が、不意に篠宮と結城が着ている服の上で止まった。
『あら』
小さく呟き、彼女は少々無遠慮ともいえる目つきで二人の姿を眺め回した。
隣に並んでいた結城の肩が、何かに気づいたようにびくっと跳ね上がる。彼が思ったのと同じことを瞬時に悟って、篠宮は顔を強張らせた。
問題は、服だ。結城は朝と同じ濃緑色のサマーセーターを着ている。それに対して篠宮は、朝とは違う焦げ茶色のシャツを身につけていた。大して気にも留めないだろうという考えは、やはり甘かったようだ。
『ねえカナト。ミスター・シノミヤは、朝は白いシャツを着てたわよね。どうして着替えてきたの?』
『えっ? あっ……いや、ほら。外歩いて、ちょっと汚れちゃったからさ。夕食にお呼ばれするのに、そんな服のまま行くのもあれかな、と思って』
『ふうん。汚れたのね』
アンジーが意味ありげな口調で言い放つ。ついに堪 えきれなくなったのか、彼女はふふ、と声を出して笑った。
『うっ……うん』
震える声で結城が返事をする。篠宮は驚いて隣を見遣った。意外にも照れているらしい。
普段は人目を憚らぬ恥ずかしい言動で自分を困らせている彼だが、古くからの知り合いにそれを指摘されるのはまた別問題のようだ。恋人しか知らないはずの閨での出来事を、母親か姉に見抜かれたような気持ちでいるのかもしれない。
アンジーの口から、極めつけの一言が飛び出した。
『緑色に、でしょ。仲睦まじくて結構なことね』
『いやっ、それは……あはは』
乾いた笑い声を上げ、結城はうつむいたかと思うと珍しく顔を真っ赤にした。
三つ星レストランもかくやと思われるビーフシチューをご馳走になった後、丁寧に礼を述べてコテージに戻る。手土産に持たされた缶ビールを飲みながら、結城と二人で夕食がいかに美味だったか語り合っているうちに、いつのまにか時計の針は就寝するに相応しい時刻を指していた。
結城に先んじて寝支度を済ませ、篠宮はベッドに潜りこんだ。洗面所から、結城が歯を磨く音が聞こえる。それが済んだら、彼もすぐにここへ来るに違いない。
枕に頭をうずめ、篠宮は窓のほうを見た。カーテンの隙間から星空が見える。きっと明日も今日と同じように、晴れ渡った気持ちのいい青空が広がることだろう。
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