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もっと照れさせたくなっちゃう

「篠宮さん……もしかして、エッチしたいと思ってる?」  恋人の甘く切ない溜め息を感じ取ったのか、結城が不意に篠宮のほうを見て呟く。胸の内を見透かされ、篠宮は反射的に肩をすくめた。 「君はどうなんだ」  あえてそうだとは答えず、篠宮は曖昧に言葉を濁した。それを聞いた結城が、暗がりの中で口をとがらせる。 「その答えはズルい。俺はいつもしたいに決まってるでしょ。そうじゃなくて、篠宮さんがどうしたいか訊いてるの。楽しい旅行もいよいよ終わりに近づいて、明日は飛行機に乗って日本へ帰るんだから。ゆっくり寝て疲れを取るのも、過ぎていく時間を惜しみながら俺とラブラブするのも、篠宮さん次第。どう篠宮さん? 俺とエッチしたい?」  からかうように胸の突起をぴんと弾き、結城が静かに問いかける。  押し付けられた恋人の身体を、篠宮はそれと気取られないように確認した。結城の両脚の間のものは、特に反応している様子はなく沈黙を保っている。  恋人がその気になっていないのに、自分から誘うなんてもっての(ほか)だ。そうは思ったが、ここで意地を張っても仕方ない。覚悟を決め、篠宮は正直に自らの思いを口にした。 「……したい……」 「ほんと?」  篠宮の言葉を聞くやいなや、結城がいきなり跳ね起きて枕元の明かりを灯す。恋人の突然の豹変ぶりに度肝を抜かれ、篠宮は顔を強張らせて後ずさった。 「べ、別にその……君が気乗りしないなら、無理にとは……」 「これ見てもそんなこと言える?」  ウエストゴムのズボンを引き下げ、結城が大きく硬くなったものを取り出す。いつも見慣れているはずのものを間近に見せつけられ、篠宮は初めて夜を共にした時のように赤面した。 「なんで、そんな……いつの間に」 「篠宮さんのほうからしたいなんて言われたら、秒で勃つに決まってるでしょ? ね、早くしよ? もう我慢できない」  どこから出してきたのかと思うような素早さで、結城がタオルやローションを用意していく。相変わらず、こういった時の支度だけは異様に手際が良い。 「はい準備オッケー! 今からエッチするよ!」  にこにこしながら潤滑剤のチューブを持ち、結城が高らかに宣言する。相変わらず、情緒もへったくれもない。 「馬鹿……」  あまりの恥ずかしさに顔を赤らめ、篠宮は寝転がったまま結城に背を向けた。ムードが無いなどと文句を言いつつも、こんな風に包み隠さず、分かりやすく求められるのが嫌いではない。 「照れちゃって……可愛い。篠宮さんのそういうとこ見ると、もっと照れさせたくなっちゃうんだよね」  意地の悪い笑い声を立てながら、結城が背中から抱きついてくる。うなじの辺りに軽くキスをされただけで、甘い痺れが全身に広がっていった。

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