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応接室で面談

「いや……この昼休みの後、応接室で面談があると言われているだろう。君と私、二人で呼ばれるなんて何事かと……気が重いんだ」  事の始まりはつい先ほど、午前中の仕事が一段落した後の話だった。いつものように結城と二人で昼食に向かおうとすると、不意に部長から声をかけられたのだ。  休憩が終わったら、二人で応接室に来てもらいたい。ちょっとばかり込み入った話がある。自分も昼食を済ませたら応接室に向かうので、それまでソファーに腰掛けて待っていてほしいとのことだった。 「なんだ、その話か。別に心配するようなことじゃないと思うけど……もしかしたら、二人揃って昇進のお話じゃありませんか?」 「そんな訳があるか。楽天的にも程があるだろう」  脳天気すぎる結城の言葉を聞いて、篠宮は頭を抱えた。結城と二人で別室に呼ばれる。そうなると、篠宮の胸に浮かぶ心配ごとはただひとつだ。 「ひょっとして……私と君の関係のことが、部長の耳に入ったんじゃないだろうか」  結城が入社当初から篠宮に熱いラブコールを送っているのは、皆が知っている話だ。もちろん部長も例外ではない。だが根っからの女好きである部長は、それが恋愛の意味を含んだ感情であるとは夢にも思っていない様子だった。  結城が人目も気にせず篠宮さん大好きオーラを撒き散らしても『そうかそうか。尊敬できる上司がいるというのは良い事だな』と常に鷹揚に構えている。故に篠宮も、部長が自分たちの仲を疑うことはないだろうとたかを括っていた。  社内の誰かと恋仲になっても、大っぴらに周りに言えないのはどこの会社も一緒だろう。それに加え篠宮たちの会社には、社内恋愛を禁止するという決まりがある。明確に定められた規則を、それと知りながら破っているのだから、どうなっても文句は言えない。  不安が不安を呼び、際限もなく心が暗くなっていく。別室に呼ばれ、自分たち二人はどうなってしまうのだろう。まずは事実について調査されるのだろうか。声高に問い詰められたら、しらを切り通す自信はない。  篠宮が以前確認したところによると、社内恋愛禁止という規則があるとはいえ、具体的な罰則については定められていなかった。だが、かえってそのほうが恐ろしいともいえる。まさか当日に解雇ということは無いだろうが、左遷か大幅な減俸か、とにかくなんらかの処分を言い渡されることは間違いない。  ひょっとしたら、きっぱりと別れるよう因果を含めて諭されるのかもしれない。篠宮は深く溜め息をついた。結城と別れて、ただの上司と部下に戻る。それだけは天地がひっくり返っても無理な話だ。

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