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ちょっとしたキャンペーン

「保育事業……正直、お話がよく分かりません。同じグループであるということ以外に、私たちに何か関係があるのでしょうか」 「まあそう急かさないでくれ。この先は、ガードナー部長補佐に説明をお願いするよ」  部長がエリックに目配せする。微笑と共にうなずき、エリックは流暢な日本語で話し始めた。 「実は、徳友出版の記者から打診があってね。再来月発売の政経フロンティアで、我が社の特集を組んでもらえることになった。『躍進する企業』という、毎月四ページを使って連載している特集記事だ」  エリックが、傍らの鞄から一冊の雑誌を取り出した。貼ってある付箋を目印にページを開き、篠宮たちの前に置く。躍進する企業という文字が、たしかにそこにあった。 「毎月、いわゆる優良企業と呼ばれる会社がピックアップされ、それぞれが記者との対談を交えながら自社のセールスポイントについて語っている。だが……バックナンバーを見る限り、どこの会社も似たり寄ったりで、眼を引くようなことは書かれていない。せっかくの機会なんだ。我が社の魅力を伝え、イメージアップにつなげるにはどうすれば良いか。私なりに考えてみた」  篠宮は、眼の前の記事にちらりと眼を走らせた。人材育成に重きを置き、研修制度を充実させているという内容だ。会社としては素晴らしいことなのかもしれないが、エリックの言うとおり、特に目新しい話でもない。 「人材育成の研修や、環境を守るための取り組みなんてのは、どこの企業でもやってる。最新の設備がどうとか、そんな記事はみんな見飽きてる。同じようなことを書いても、読み飛ばされるのがおちだろう。もっと人の心に寄り添うような、温かみを感じさせる方向で攻めていきたい」  黙って話を聞きつつも、篠宮の頭の中にはいくつもの疑問符が浮かんでいた。記事についての話は理解できたが、それと保育事業と自分たちがどう繋がるのか、いくら考えてもさっぱり分からない。 「先月、我が社で出している子供向けの麦茶が、大幅にリニューアルして発売された。厳選されたオーガニック素材を使い、大人が飲んでも良いという触れ込みだ。売り上げは悪くないが、まだまだ知名度が低い。そこで、系列会社である株式会社マグノリアナーサリーに協力してもらって、身内でちょっとしたキャンペーンを行うことにした。君たちもそれに参加してもらいたい」  最近発売されたその麦茶の話は、篠宮も小耳に挟んでいた。著名な絵本作家にイラストを頼み、評判が良ければ林檎やオレンジなどのジュース類もシリーズ化する心づもりでいたらしい。今のところ、売り上げは思ったほど伸びず、まずまずといったところだった。

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