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最後の理性

「ああっ……ん……!」  緩やかに動かれるだけで官能の波が押し寄せてきて、篠宮は声を高くした。  涙で潤んだ眼も、上気した頰も、快楽に喘ぐくちびるもすべて見られている。感情が顔に出ると、彼から言われたことを篠宮は思い出した。今の自分は、どんな表情をしているのだろうか。それを思うと羞恥で耐えられなくなった。 「顔を見ないでくれ」 「なんで……? すごく色っぽくて、綺麗ですよ」  ぐっと腰を突き入れ、奥に挿れたまま小刻みに動く。最奥が、結城の先端を捕まえるかのようにひくひくと収縮した。 「んんっ……!」  身をよじって、篠宮はまた甘い声をあげた。  最後の理性が崩れ去っていく。あれだけの痴態をさらしておいて、今さら顔を見ないでくれと言うのも滑稽ではないか。結城にだけは、この顔をさらけ出すしかないのだ。彼ならきっと、どんな表情でも受け止めてくれる。 「ね。俺たちのここ、ぴったりだと思いませんか」  結城が嬉しそうに笑顔を見せた。  ぎりぎりまで腰を引いてから、また深く突き刺す。擦られる感覚と、満たされる快感が交互にやってくる。自分でも気づかぬうちに、篠宮はもっと奥まで受け入れようと腰を突き出していた。 「ああ……篠宮さんのここ、すごく気持ちいいです。柔らかいのに、ぎゅっと締めつけてくる……篠宮さんは?」  優しい声で結城が問いかけてくる。すぐには返事もできず、篠宮は荒く息をついて結城の肩先にすがりついた。 「痛いですか? 痛いなら、やめます」 「い、いや……」  ほんの僅か、痛みはある。だがそれだけではない。痛いだけなら、こんなにひっきりなしに甘い声がもれるわけはない。結城はそれを解って尋ねているのだ。  篠宮は観念して口を開いた。 「き、気持ちい……」 「どこが気持ちいいの?」  抑えた声で囁き、結城が腰の動きを速めていく。野生的で獰猛な、雄の顔だ。 「なっ、中が……あ、もう……」 「中が気持ちいいんだ? まだ二回めなのに、篠宮さんのここ、男が大好きになっちゃったんですね」 「ち……ちが……!」 「男のじゃなくて、俺のが好きなの? 嬉しい……もっと俺のこれ、好きになってください。恋人なんだから」  結城が先端で奥を小突いた。中がひくひくと震え始め、身体が引き絞られるような感覚が徐々に強くなる。 「あっ、いや……!」 「篠宮さん、すごくエッチな顔してる……! その顔見ただけでイキそうですよ」  結城が篠宮の前の昂りに手を添えた。そのまま優しく握りこむように、指の腹を使って刺激する。先端を撫で回されると、溜まった欲望が一気にせり上がってきた。 「やめてくれ、そこ触ったら、も……イく、イクっ」  熱い蜜が精路を駆け上っていくのが判る。先端から勢いよく精液が噴き出し、結城の腹を汚した。 「うわ、すげえ締めつけ……! 俺もイキますよ」  灼熱の杭が、篠宮の中で跳ね上がった。熱い溜め息と共に、結城のものが体内で何度も脈打つ。 「すごい、根元から搾り取ってくる……!」  結城が低い呻き声をあげる。脈動がだんだんと緩やかになり、最後に消えるまでにはかなりの時間がかかった。実際にはほんの数秒だったかのかもしれないが、少なくとも秒針が一周するくらいの間は、精を注がれ続けてていたような気がする。 「あっ……ああ」  篠宮は大きく息をついた。射精したあと特有の倦怠感が襲ってくる。終わったのだ、と篠宮は朦朧とした頭で考えた。 「はあっ……はあ……」  吐息と共に自分のものを引き抜き、結城か避妊具を外した。白くてどろりとしたものが、大量に底に溜まっている。 「良かったです……愛してます、篠宮さん」  避妊具をティッシュに包んでごみ箱に放りこむと、結城は篠宮を背後から抱き締めた。首筋にキスを繰り返し、耳たぶを甘噛みして、愛していると何度も囁く。  うつぶせになったまま、篠宮は口接けに身を任せた。  結城のくちびるが、襟足から背中に移動していく。肩の後ろにキスを落とされ、篠宮は小さく身震いした。 「……ここも感じるんですね」  肩甲骨の辺りに、結城がしつこいほどに口接けを繰り返してくる。 「やっ……やめてくれ」  くすぐったい。ただそれだけの事が、何度もされるうちに快感に変わっていく。 「そんな甘えた声でやめてなんて言われても、やめられませんよ」  背後から結城が囁きかける。面白がっているような声だ。 「い、や……結城、ほんとに……んっ」 「やめてなんて言いながら、感じまくってるじゃないですか。さっき出したばっかりなのに、その声聞いたらまたこんなになっちゃいましたよ。どうしてくれるんですか」  太腿の裏に固いものが押し付けられる。それを感じると、腰の奥が再び熱を持ち始めた。 「ああもう。無理させないって決めてたのに……駄目だ。我慢できない」  篠宮をうつぶせにしたまま、結城はその両脚の間に腰を据えた。狭間を押し開いて、そこがまだ充分に濡れていることを確かめる。 「もっと欲しい……いい?」  眼を伏せて、篠宮が小さくうなずく。返事が終わるか終わらないかのうちに、結城は蕾に切っ先を当ててきた。

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