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折り紙

「男性のかたにはちょっと窮屈だと思いますけど、よろしければこちらにお掛けくださいね」  子供用の小さな椅子を手で示し、彼女は自らも近くの椅子に腰掛けた。年季の入った木のテーブルの上には、色鉛筆や折り紙が、子供にも手に取りやすいように並んでいる。  勧められた場所に座り、篠宮は園庭のほうを見た。結城が、自分の腰ほどもない背丈の子たちと一緒に、輪になってじゃんけんをしているところだ。  この場に彼がいて本当に助かった。そう思って、篠宮はほっと溜め息を洩らした。結城は明るく元気があって、いかにも子供から好かれそうな感じだ。それに対して自分のほうは……結城が入社してから、だいぶ柔和になったとは言われるものの、誰にでも愛想よくというわけにはいかない。  今日の仕事は全面的に結城に任せて、自分は関与せずに済ませよう。そう考えた次の瞬間、数人の男の子が、どたどたと縁側で靴を脱いで篠宮を取り囲んだ。 「まさゆみお兄さん! いっしょに折り紙しよっ!」  こんな愛想のない奴に寄ってくる物好きなどいないだろうと思っていたが、子供たちは意外にも屈託なく、次々と話しかけてくる。 「あ……ああ」  言われるまま折り紙を選ぶのを手伝い、折りかたの本のページを開く。最初のうちはざわついていた子供たちも少しずつ落ち着き、五分後にはそれぞれの椅子に座りながら一心に遊び始めていた。 「ねえ、まさゆみお兄ちゃん。ここってどうやるの?」  一人の子が、途中まで折ったらしい折り紙を差し出す。水色の紙と折り方の本を見較べ、篠宮は曖昧にうなずいた。 「ああ……ロケットを作りたいのか」  気は進まないが、来てしまったものは仕方ない。過去に折り紙を折った記憶など無いに等しかったものの、並んだ図を番号に沿って眺めると、おおよその手順は理解できた。 「ここのとこが分かんなくって」  図の中のひとつを指差し、男の子がさらに篠宮の手に紙を押しつける。託された折りかけの紙は、角が合っておらず、少し……いや、かなり歪んでいた。 「ああ……ここに指を入れて中を開くんだ。ほら、こんな風に」  ぜんぶ開いて折り直したい誘惑に駆られたが、子供が一生懸命折った物を直すのも気が引けて、篠宮はそのまま続けることにした。  折り重ねて膨らませることで、一枚の紙が自分の手の中で立体に変わっていく。その様子を人ごとのように眺めながら、篠宮は学生時代に学んだ数学を思い出した。思えば昔から、空間図形の問題は得意なほうだった。折り紙は、その応用と言えなくもない。

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