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気にしないに限る
「すごい、まさゆみお兄ちゃん! おりがみ名人だね!」
「あ、ああ……まあな」
羨望と尊敬の眼差しを向けられ、篠宮は思わず赤面した。子供相手とはいえ、手放しで褒められると少し照れてしまう。
ぱしゃり、とシャッターを押す音が聞こえたのはその時だった。
「あ……」
そういえば、これは雑誌の取材だった。そのことを思い出し、改めて緊張する。カメラを抱えたまま、記者は安心させるように微笑んだ。
「ああ、どうぞそのままで。とてもいい画 が撮れました」
いつ写真を撮られるかもしれないと思うと、妙に落ち着かないが、だからといって撮るなというわけにもいかない。
とにかく、レンズを向けられても気にしないに限る。そう割り切って、篠宮は再びテーブルを見渡した。
絵を描いたり色を塗ったり、好きな色の折り紙を選んだりと、子どもたちが思い思いのことを楽しんでいる。そのうちに篠宮は、二つに結った髪に赤いリボンをつけた女の子が、ちらちらとこちらを見ているのに気がついた。
「どうしたんだ」
篠宮が声をかけると、女の子は本と折り紙を手に持ち、小走りに駆け寄ってきた。
「えっとね……ハートつくりたいの」
開かれたページには、いかにも女の子が好みそうな赤とピンクのハートが載っている。平面なので、先ほどのロケットよりは簡単だ。とはいえ、小学校に入る前の子供にとってはやはり少し難しいかもしれない。
「貸してごらん」
最後の箇所で挫折したらしい折り紙を受け取って、篠宮は手早く仕上げの部分を折ってみせた。
「はい」
相手が子供だということを忘れ、つい普段どおりの無愛想な顔で渡してしまう。だがそんなことを気にした様子もなく、女の子はややはにかんだ表情でハートの折り紙を受け取った。
「あの……ありがとう」
小声で礼を述べ、女の子がもと居た席に戻っていく。その隙を待ち構えたように、入れ替わりでまた別の男の子がやってきた。
「まさゆみお兄ちゃん! さっきハルキくんが作ってたロケット、ぼくにも作ってよ!」
オレンジ色の折り紙を振りかざし、男の子が勢いこんで声をあげる。園長が少し離れた場所から、優しい、だが毅然とした声で男の子に諭した。
「ユウトくん。本を見て、分かるところまでは自分で折るのよ。まさゆみお兄ちゃんがぜんぶ作ったら、できたロケットも、まさゆみお兄ちゃんの物になってしまうでしょう?」
「はぁい……」
やや不本意な表情で返事をしてから、男の子は本を見つめて、真剣に紙を折り始めた。
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