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見舞いの品
『だってさー。こんなに美人で可愛くて色っぽい篠宮さんが俺の恋人だと思ったら、お上品になんて振舞っていられないでしょ? 篠宮さんと付き合ってる幸せを満喫したいと思ったら、そりゃあ下品にもなるって。ああもう、こうやって話してるだけで勃ってきちゃったよ……篠宮さんのあのエッチな腰つきを想像しただけで、俺の中のオヤジが走り出しちゃうんだよねー』
「……とりあえず元気そうで何よりだ」
『あっさり流さないでよー! ねー、相手して! ねぇねぇ』
結城がじゃれつくような甘えた声を出す。篠宮は呆れて肩を落とした。いつも元気で健康そのものの結城が、体調を崩すなんて。そう思って気を揉んでいたのに、心配して損をした。
「騒ぐと熱が上がる。寝ていろ。じゃあな」
『あー待って篠宮さん! ね……』
騒がしい声が響く電話から耳を離し、強引に会話を終わらせる。
電話を切ると、篠宮は深く溜め息をついた。馬鹿だの下品だのと言って冷たくあしらってはみたものの、心配するほどの症状ではなかったことにやはり安堵する。デートでケーキ屋に行きたいなどと言っていたところをみると、いちおう食欲はあるのだろう。
一息ついて指先を伸ばし、篠宮は先ほど結城が言っていた店について調べ始めた。
麻布にある洋菓子店、ミュゼット。開店は十時で、限定のタルト・タタンは午前中にはほぼ売り切れてしまう。タイミングによっては少し並ぶこともあるが、長蛇の列というほどではなく、十一時頃までに行けば買えるという。
今日のぶんはもう売り切れてしまっただろうが、明日であれば買えないことはない。見舞いの品として持っていってやれば、さぞかし喜ぶだろう。ふとそんな考えが頭に浮かぶ。
甘やかしすぎだろうかと思う反面、自分の恋人を甘やかして何が悪いのかという気もする。食事を作ってもらったりその他の家事を肩代わりしてもらったりと、彼には何かと世話になっている。この機会に、少しくらいは恩返しをしておくべきかもしれない。
仕方ない。明日は葡萄と林檎のタルトタタンを手土産に、彼の顔を見に行ってみるか。そう決意して、篠宮は買ってきた弁当を温めるため台所へと向かった。
◇◇◇
初めて訪れる麻布の街並みは、石畳の道にそれぞれ趣向を凝らした美しい建物が並ぶ、洒落た場所という印象だった。
飲食店が多く、見渡す限り品があって味も期待できそうな店構えだ。種類も和洋中が揃っている。麻布に行きたいなどと結城から言われて意外に感じたが、これならたしかに、恋人同士のデートの場としても悪くない。
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