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自然な流れ

「でもその教育の甲斐あってか、俺は無事に、非の打ち所のない最高の恋人をゲットできたよね! ね、どう篠宮さん? 俺、自分の魅力で勝負できてた?」  篠宮の服に顔をうずめ、結城が心から幸せそうな声で問いかける。大会社の社長の息子だなんて、一歩育てかたを間違えば鼻持ちならない奴になっていただろう。こんな風に素直に育ててくれた彼の両親に、篠宮は心の底で感謝の意を捧げた。 「魅力というよりも……君のその、強引でしつこいところに負けた」 「えー。ひどいよ篠宮さん。意志が強くて、困難があってもくじけず頑張るところに負けた……そう言ってくれてもいいんじゃない?」  眼を細め、結城がそっと篠宮の髪を撫でる。そのまま、二人はどちらからともなく黙りこんだ。  心地好い沈黙が辺りを満たす中、お互いに吸い寄せられるようにくちびるが重なり合い、温かな余韻を残してすぐに離れる。深く貪らなくても、愛し愛されていることは充分に伝わる。そんな風に感じられる、温かく優しい口接けだった。  結城が腕を伸ばし、篠宮の肩を軽く抱き寄せる。椅子に座ったまま、篠宮はその胸に無言で身体を預けた。微かに漂ってくるシトラスの香りが心地よい。さらに身を寄せて恋人の体温を感じると、自分は居るべき場所に帰ってきたのだと、心の底から安らいだ気持ちになった。 「えーと……ごめん、篠宮さん」  穏やかな気持ちでくつろぐ篠宮をよそに、結城が急にもぞもぞと身動きし始める。篠宮が驚いて身を離すと、結城はどこか困った様子で視線を泳がせた。 「済まない。私が寄りかかったから、腕でも痺れたか」 「いやあの、そうじゃなくて。なんていうかこう……お互いに深く信頼しあった恋人同士、みたいな雰囲気になってるとこ悪いんだけどさ。チューしたら、やっぱりその……したくなっちゃった。明日は会社だけど、いい?」  恋人の身を(おもんぱか)って、結城が声をかける。そんな事で悩んでいたのかと思い、篠宮は笑いだしたい気持ちになった。 「もうちょっと自然な流れで誘えないのか……」 「だってここでいっぱいキスしたら、このまま床に押し倒したくなっちゃうもん」  意味不明の自信と共に、結城が思いきり胸を張る。こらえきれない苦笑が篠宮の口許に浮かんだ。他ならぬ結城からこうもあっけらかんと、思い違いの余地もなく明け透けに求められてしまっては、断れるはずもない。 「身体のほうは大丈夫なのか」 「風邪ならもうすっかり治ったよ。それよりも今は、篠宮さんが欲しくて死にそう」  甘えた声を出し、結城が煽るように胸許を撫でてくる。幾度も繰り返した情事の記憶が甦り、篠宮は身体の芯がぞくりと震えるのを感じた。 「君はもう、風呂に入ったんだな。髪からシャンプーの匂いがする」 「うん。篠宮さんも入る? 少しぬるいけど、沸かせば大丈夫だと思うよ」 「ああ……そうだな。私もひと風呂浴びてくる。ベッドの中で待っていろ」 「待ってる待ってる。全裸で正座して待ってるから!」  椅子に座ったまま、結城が嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。相変わらずムードがないと苦笑いしながら、篠宮は立ち上がって風呂場へ向かっていった。

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