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機嫌直して

「あー、凝ってますねー」  親指で両肩を押しながら、結城がそれっぽい台詞を吐く。少しくすぐったいような気もしたが、篠宮は奥歯を噛み締めてなんとか耐えた。 「はーい。じゃあ、オイル塗りますね」  機嫌の良さそうな声と共に、背中に何かが塗りつけられる。最初のうちは冷たく感じたものの、しばらく経つと徐々に肌が温まってきた。温感タイプのオイルのようだ。 「それでは、どこが凝っているか確認していきます。痛かったら言ってくださいね」  じんわりと温かくなった両肩に、結城の大きな手のひらが添えられる。親指の腹で軽く押されると、思わず声が漏れた。 「あっ……」 「あれ。痛かった?」 「いっ、いや……痛くはない」  うつ伏せのまま、篠宮はもぞもぞと身動きした。寒くもないのに鳥肌が立ち、どことなく落ち着かない気分になる。 「じゃあ続けますね。この辺はどうですか?」 「んんっ、あっ」  オイルで濡れた指先で脇腹を撫で上げられ、篠宮は我慢できずに声を上げた。身体の中心にぞくぞくと甘い痺れが走る。腰の辺りの血液が一斉に、ある目的を持って両脚の間へ流れこんでいくのが分かった。 「もうっ、篠宮さん。変な声出さないでよ。俺、真面目にやってるのに」 「変な声なんてっ……出してない」 「出してるじゃん。篠宮さん、背中弱いにも程があるよ……ね、ここなら大丈夫?」  呆れたように溜め息をつき、結城が指の位置を変える。背中のくぼみに指を這わされ、篠宮はたまらずに身悶えした。 「やっ、ちょっと……そこはやめてくれ」 「しょうがないなあ。じゃあ、こっちは?」 「いや、あっ、そこも」 「じゃあ何処ならいいのさ?」  結城が機嫌を損ねた様子で口をとがらせる。  恋人が真剣に肩の凝りをほぐそうと頑張ってくれているのに、どうしてそれを性的な刺激だと感じてしまうのか。申し訳ない気持ちで一杯になりながらも、篠宮は涙目で反論した。 「ど、どこって……そんなこと言われても」 「え……いやちょっと待って篠宮さん。ごめん、俺が悪かった。そんなにマジにならないで」  篠宮の涙を見て、結城がはっと息を飲む。慌てて声を低め、彼はなだめるように優しく語りかけた。 「ごめんごめん。意地悪するつもりじゃなかったんだよ。機嫌直して……ね? はいもうマッサージおしまい! もったいぶらずに、ちゃんと気持ち良くしてあげるから、許して」  背中から抱き締めるように覆いかぶさり、結城が首筋にキスをする。思わず洩れそうになる甘い溜め息を、篠宮は歯を食いしばって抑えこんだ。 「んっ、う……」 「我慢しなくていいよ。さっきはあんな言いかたしてごめん。背中撫でられただけで感じちゃう篠宮さん、可愛い。大好きだよ」  小声で耳許に囁き、結城が腰に掛けたタオルをめくる。露わになった双丘を手のひらで軽く撫でられ、篠宮は身体の芯が熱くなるのを感じた。なんとか拒んでみせようと思うものの、そのたびに絶妙なタイミングで感じる場所を愛撫され、甘い喘ぎが先にこぼれてしまう。 「あ……あっ」 「見て、篠宮さん……その声聞いただけで俺、もうこんなになってる」  着ていた物を脱ぎ捨て、結城が約束どおり全裸になる。硬く張り詰めたものが、行き先を求めて胴震いしているのが見えた。 「深呼吸して……力抜いて。早く篠宮さんの中に入りたい」  長い指が、狭間をそっと割り開く。ぬめりを帯びた何かが、固く閉じた蕾に塗りつけられた。 「篠宮さんのここって、すごく素直だよね……ちょっと触っただけで、欲しがってぴくぴくしてるよ」  濡れた指先が内側に入りこんでくるのを感じ、篠宮は意識して結城に身体のすべてを預けた。念入りに洗っているとはいえ、そこを触られるのにはいまだに抵抗がある。だがそんな顔から火が出るような羞恥も、恋人がここで繋がることを望んでいるのだと思えば、なんとか耐えられた。

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