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会社中の噂

 身を引き絞られるような快感に、太ももが激しく痙攣する。ぐらりと揺れた上半身を、結城の腕が背中から力強く抱きとめた。 「んんっ、あっ……!」  受け止めきれなかった雫が、結城の指を伝ってバスタオルの上に落ちる。身体の内側が、恋人から同じ物を搾り取ろうとして何度も収縮した。 「最高だよ篠宮さん、俺ももう出そう……! あっ、出るっ」  体内にある彼のものが、ひときわ大きく膨れ上がる。張り詰めた幹が力強く脈動し、避妊具越しに射精されているのだと分かった。 「んっ……篠宮さん、好き……好きだよ」  想いのたけを注ぎこむように、結城が何度も腰を打ちつけてくる。射精の快感に夢中になっている彼が愛しくて、篠宮は思わず振り返った。後ろから受け入れているせいで、抱き締められないのが少しもどかしい。 「……はあ……」  背後から満足の溜め息が聞こえ、体内を満たしていたものがゆっくりと引き抜かれていく。反射的に身構えてから、篠宮はその必要はないのだと気がつき安心して力を抜いた。出された精液が漏れ出る、情事の後にいつも味わうどろりとした不快感を、当然ながら今日は感じない。  明日は仕事だからと、自らの欲望だけに走らずにきちんと身体のことも考えてくれる。そんな結城の心遣いに愛情の深さを感じ、篠宮は満たされた思いでベッドの上に座りこんだ。恋人の熱い蜜を直接受け止める快感には敵わないが、背中から優しく抱き締める腕を感じるだけで、なんともいえず幸福な気持ちが湧き上がってくる。 「ああ……良かった……やっぱ篠宮さんの中、最高だよ。ほら見て? こんなに出ちゃった」  笑いながら、結城が使い終わった避妊具をぶら下げて見せる。中に白い液体がたっぷりと溜まっているのを見て、篠宮は顔を赤らめた。 「篠宮さんもすごい勢いだったよね……俺が押さえてなかったら、絶対にベッドの外まで飛んでたよ」  耳許にくちびるを付けて寄り添い、結城がからかいの言葉を口にする。白いもので汚れた彼の手を見て、篠宮は顔を赤くした。 「可愛い」  微笑んだ結城の眼が、急に何かを思いついたようにきらりと光る。手のひらを大きく広げ、結城はわざとらしく舌を伸ばして、そのべっとりと付いた青くさい液体を舐め取ろうとした。 「馬鹿、やめろ」  慌てて手首をつかんで押しとどめ、篠宮は結城の手のひらをティッシュで乱暴に拭った。 「えー。何すんのさー。美味しいのに」 「そんなわけないだろう。馬鹿」  眉をしかめ思いきり睨みつけてみせても、結城には一向に効果がない。可愛くてたまらないといった表情で、結城は優しく眼を細めた。 「篠宮さん。今日はタルトタタン買ってきてくれて、本当にありがとう。シャワー浴びたら家に帰って、ゆっくりしてよ」 「ああ……そうだな」  そうだ、今日は日曜日だ。そのことを思い出して、篠宮は憂鬱な気分になった。明日、いつもどおりに会社に行くためには、いちど家に帰らなければいけない。まさか普段着のままで出勤するわけにもいかないだろう。 「それとも。サイズ同じだから、俺のスーツ貸そうか? えへへー。まあ篠宮さんが俺のスーツ着て俺と一緒に出勤したら、ついに一線越えちゃったかって、会社中の噂になるだろうけどねー」  満更でもない様子で結城が相好を崩す。その顔を見て、篠宮は固く決意した。備えあれば憂いなしという言葉もある。どうしようもない非常時のために、自分のスーツを一式、靴まで含めてこの部屋に置いておくべきだろう。 「名残惜しいけど……一緒に晩御飯食べたら、じゃあその後もってことになっちゃうし。俺としては大歓迎だけど、篠宮さんは嫌なんでしょ? ここから、俺と二人で出勤するのは。会社の人に見られる可能性大だもんね」 「それは……まあ」  篠宮は曖昧に語尾を濁した。たとえ時間をずらしたとしても、自分がいつもと違う電車に乗っているところを、会社の人間に見られて困るのは確かだ。とはいえ部屋を訪れて、こんな風に身体だけ重ねて帰るなんて、それはそれで耐えがたい。まるで売春婦のようではないか。 「あーあ。結婚して夫婦になったら、ずっと一緒に居られるのにな。ね、篠宮さん。やっぱ結婚しない? 俺、親父を説得して、社内恋愛は悪いことばかりじゃないって認めさめてみせる。二人で家建てて、夜は抱き合いながら隣で眠って、朝は仲良く愛の巣から一緒に出勤しよ?」 「そんなことできるわけないだろう。馬鹿」  いつものくだらない戯言を聞き、少し気持ちが軽くなる。裸のままくつろぐ結城とキスを交わし、篠宮はシャワーを浴びるために立ち上がった。

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