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恋人自慢

 翌日の月曜日。篠宮はいつものように出勤し、一分の隙もなく磨かれたガラスの扉をくぐって、営業部へと向かう階段を登った。  ロッカーに荷物を置き、念のため手洗いを済ませて席に向かう。あともう少しで始業時間というところで、向かいの席の佐々木がパソコン越しに声をかけてきた。 「あの……篠宮主任。先週の木曜日、結城と二人でうちの系列の保育園に行ったんですよね。どうでした?」 「どうって……どういうことだ」  篠宮が聞き返すと、佐々木はなぜか楽しそうに頰を緩めた。 「なんていうか、全体の雰囲気ですよ。建物の感じとか、園長はこんな感じだったとか、子供たちの様子とか」 「まあ……建物は古かったな。全部が全部そうというわけではないと思うが、私たちが行った所は、歴史があって昔ながらの保育園という感じだった。園長は気さくで、とても優しい雰囲気だったぞ。園児たちを本当に大事に思って、心から慈しんでいるのが分かった。子供たちの様子については……それは、結城に訊いたほうがいいんじゃないか。彼のほうがたくさんの子供と触れ合っていたし、親しく話もしていた」  なぜ佐々木が急にこんな質問をしてきたのか不明だったが、篠宮はとりあえず尋ねられるまま真面目に答えを返した。 「いやあ……実は先週のうちに、結城にも訊いてみたんですけどね。あいつときたら、篠宮主任がカッコ良かったとか、子供たちにモテモテだったとか、篠宮主任の話しかしないんですよ」 「そうなのか。しょうがない奴だな……」  本当に誰彼かまわず恋人自慢をしているのだと知り、篠宮は心の中で溜め息をついた。結城がどんな馬鹿なことを口走ろうと、周りの人が適当に受け流してくれるのがせめてもの救いだ。 「それはそうと……どうして、保育園の話なんか聞きたがるんだ」 「へへ。それはですね……」  佐々木が意味ありげににやりと笑う。唐突に胸を張ったかと思うと、彼はみんなのほうに身体を向けて高らかに宣言した。 「皆さん聞いてください! 俺、パパになりました!」  三か月前に結婚した彼の、妥当といえば妥当な報告に、一課の皆が手を止めて騒然となる。 「え、そうなの?」 「佐々木さんおめでとう!」  祝福の言葉が次々と投げかけられ、同時に拍手が巻き起こった。 「え、あ……ありがとうございます」  一課のすべてを巻きこんだ大きな反応に、佐々木が照れた顔を見せる。子供と聞いて黙っていられなくなったのか、牧村係長補佐がわざわざ近づいてきて声をかけた。

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