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幸せの形

 愛する人と自分、その両方の遺伝子を持った子がこの世に生まれる。子が孫を産み、その孫がまた子を産み……たとえ自分たちが居なくなっても、その血はいつまでも受け継がれ、二人が愛し合った証を残してくれる。それは世の中の大多数の人が思い描く、幸せの形であるように思われた。 「君は……自分の子供が欲しいと思った事はないのか」  思わず、そんな質問が篠宮の口からこぼれ出た。自分と違い、結城はどちらかというと子供好きな部類に入る。まだ見ぬ姪や甥に対しても、きっと良い叔父になるに違いない。ましてや自分の子となれば、おそらく目の中に入れても痛くないほど可愛がるだろう。  彼は男性で、自分も同じく男性だ。今まで感じたことのない、もやもやとした得体の知れない罪悪感が、胸の奥に沸き起こった。 「えー。俺、篠宮さんが居てくれたら他にはなんにも要らない。子供なんかいたら、篠宮さんとイチャイチャする時間を子供に取られちゃうもん。篠宮さんは俺だけ見て、俺だけ愛して」  篠宮の両膝の間に割り込み、結城が胸と胸を密着させる。彼がつけている香水の、紅茶のような微かな香りが鼻先をくすぐった。 「篠宮さんは欲しいの? 子供」  君との子供なら欲しい。篠宮は胸の中で静かに答えを返した。しかし、それは叶わないことだ。自分たちが同性である以上、どんなに望んでも自然の摂理で子を成すことはできない。  深呼吸をして、篠宮は暗くなりかけた自分の心を平静に保った。結城は子供など必要ないと言ってくれている。だとしたら、勝手に悩んで落ちこむなんて、彼にとっては迷惑な話だ。  男女間なら、別に愛し合っていなくても子供は出来る。世の中には望まれずに生まれてきた子供がいくらでも居る。その一方で様々な理由から、欲しいと思っていても子宝に恵まれない女性だって存在する。子供の居ない夫婦が必ずしも不幸かというと、答えはもちろん否だ。  子供だけが幸せの指標ではない。愛しい人が健康で自分のそばにいて、同じように愛していると言ってくれたら、それで充分なのではないか。この件に関して、少なくとも結城ははっきりした回答を出しているように思えた。 「子供なら、眼の前にいるだろう」  そう言って結城の鼻先を突つき、篠宮は答えをはぐらかした。 「えー。篠宮さん、前にこう言ってたよ。子供がこんなエッチなことするわけないって」  そう言いながら、結城が篠宮のシャツのボタンを外していく。喉元に口接けようとしてくる彼を、篠宮は間に手を挟んで遮った。真面目な話をしているのに、そんな所にキスをされた日には、あっという間にベッド直行の流れになってしまう。

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