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未来の花嫁

「……済まない」 「もう、篠宮さん。そんなことで謝らなくていいんだよ。篠宮さんが俺のためを思ってそう言ってくれてるってこと、俺にはよく分かってるから。でもね、篠宮さん。篠宮さんは、俺にはいくらでも我がまま言って甘えてもいいんだよ? えへへー。その代わり俺も、篠宮さんには遠慮なく甘えさせてもらうけどね。はい篠宮さん、あーん」  一口大に切ったオムレツをスプーンにのせ、結城は問答無用でそれを篠宮の口許に差し出した。 「あっ、そうだ篠宮さん。うちの家族も揃うことだし、いよいよここで篠宮さんを、俺の未来の花嫁としてみんなに紹介する時が来たんじゃない? おっ、我ながらいい考え! ねえねえ。兄貴の結婚祝いパーティーに、篠宮さんもサプライズで登場してよ。個展を見終わった後で池袋の駅まで来てくれたら、俺が迎えに行くからさ」 「ばっ、馬鹿……そんな事できるわけないだろう」  ベーコンとトマトの入ったオムレツを無理やり飲み込み、篠宮は慌てて返事をした。  自分の息子が、この人と結婚したいと、身長百八十センチ越えの男を連れてくる。それを聞いた父親がどう感じるか、その心痛は察するに余りある。そんな状況で社長と対面するなど、できれば一生経験せずに済ませたい。 「一応スケジュールとしては、みんなで軽く昼飯食ってから、安産祈願のお参りに行く予定なんだよね。その後はデパートに行ってぶらぶらしたり、夜に食べるお惣菜を物色してから、家に帰ってまったり過ごす予定。そんな感じの緩いスケジュールだから、飛び入りで参加してくれて全然オッケーだよ。パーティーっていっても自宅で飲み食いするだけだもん。別に気兼ねしなくていいよ」  大したことではないとばかりに、結城が気軽な口調で言い放つ。篠宮は慌てて首を横に振った。 「気兼ねするなと言われても……とっ、とにかく。無理だ。絶対に無理だ」 「えー、なんで? 俺としては篠宮さんと一緒にいられるし、結婚しますって家族みんなに紹介できるし、兄貴のお祝いにも参加できるし、一石三鳥なんだけど」  残念そうに苦笑いしつつも、結城はその考えに固執する様子はなかった。例によって、からかわれただけらしい。 「まったく、君ときたら……」  眉をひそめ、篠宮がむっとした表情で黙りこむ。その顔を見て、結城はさらに眼を細め明るい笑い声を立てた。  篠宮は仕方なく苦笑を返した。茶目っ気たっぷりで悪戯っ子のような結城の表情を見ていると、ついつい甘やかしたくなってしまう。惚れた弱みという奴らしい。 「じゃあ行ってくるね。よかったら、個展の感想も教えてよ。篠宮さんがどんなタイプの絵が好きなのか知りたいもん。そうそう。いま思いついたんだけど、来週のデートで、美術館に行ってみるってのはどう? 行き先の候補に加えといてよ」 「ああ……考えてみる」  椅子から立ち上がって身をかがめる結城と、テーブル越しに軽くキスを交わす。  自分が彼の家族に会うのは、いったいいつのことになるのか。覚悟ができる時など永遠に来ないだろうと思いながら、篠宮は腰かけたまま、黙って恋人の後ろ姿を見送った。

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