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晴れた日のデート

「もう。考えといてって言ったじゃん……でもまあ、しょうがないか。今週は忙しかったもんね。どうする? 芸術の秋ってことで、美術館にしようか?」 「いや……美術館はちょっと」  小声で遠慮がちに、篠宮はあまり気乗りがしないという旨を伝えた。  額縁に入った絵が並んでいるのを見たら、きっと橘のことを思い出してしまうだろう。後ろめたいことは何もなかったが、彼を連想させるような場所にわざわざ自分から行くのは避けたい。ただの友人だからという理由で、深く考えず一人で会いに行ってしまった自分の迂闊さにも腹が立っていた。  とにかく、今回のことは良い教訓になった。これからは男だろうが女だろうが、二人きりで食事をするのは絶対に回避することにしよう。  橘の連絡先については、悪いとは思いつつもすべて削除させてもらった。相手方にはまだ自分の連絡先が残っているかもしれないが、彼のような紳士がそれを悪用するとは思えない。万が一なにかあったところで、警察に相談すればいいだけの話だ。何事もなければ、このまま忘れてしまうのが一番である。 「あれ。美術館じゃなくていいの? 篠宮さんって結構、ひとつの事に集中してハマるタイプだからさあ。いい絵を見て感動したら一気にスイッチ入って、あちこち美術館めぐりしたいって言い始めるんじゃないかと思ってたのに。そういえば、忙しくて訊くの忘れてたけどさ。先週の個展ってどうだったの?」 「あ、ああ……まあ、いい絵だったと思う」  篠宮は僅かに口ごもった。絵に関しては、観て良かったとは思っている。問題なのはその後の出来事だ。  自分の恋人に他の男が横恋慕しているなんて、誰が聞いてもあまり良い気はしないだろう。結城にはなるべく包み隠さず、なんでも話しておきたいとは思うが、だからといって余計な波風を立てる必要もない。 「ふうん。なんか微妙な返事だなあ。もしかして期待はずれだった?」 「そういうわけでは……ただ、明日は天気が良さそうだから、屋内だけで過ごすのはもったいない気がして」 「それもそうだね。あ、だったら水族館にしようよ! 公園も散歩できるし観覧車にも乗れるし、晴れた日のデートには最高って書いてあったよ。俺、いちど行ってみたいと思っててさ」  なにやら楽しそうな説明を聞いて、篠宮の胸にも期待の灯がともった。結城がこんなに乗り気なのだから、自分のほうに逆らう理由はない。 「水族館か。悪くないな」 「じゃあ水族館で決まり! えへへー、楽しみ。どこでごはん食べようかな。コンビニかどこかで買っていって、公園の芝生に座って食べるのもいいよね」  ソファーの背もたれに寄りかかり、結城がさっそく明日のデートプランを立て始める。

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