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いつまでも変わらぬもの

「それで……するのか。見合い」 「するわけないじゃん。突っ返そうと思って、開けてなかったんだけど。中見てみる? どうせ、見るからに性格悪そうな、ハゲワシか深海魚みたいな顔に決まってるよ」  溜め息と共に言い捨て、結城は封筒の口を乱暴にびりびりと破り取った。中にはこれまた慶事に相応しい、桜の花模様を散らした台紙が不織布に包まれて入っていた。 「どれどれ……」  冷やかしてやれとばかりに、結城が無造作に表紙をめくる。やや栗色がかった髪をふんわりと片側にまとめた、若い女性の写真が眼に飛びこんできた。  篠宮はその写真をまじまじと見つめた。多少の修整は入っているだろうが、写真で見る限り、目鼻立ちの整った美しい女性だ。趣味は料理とスノーボードと書いてある。明るくて快活な性格なのだろう。いかにも結城と気が合いそうな感じだ。 「美人じゃないか」 「ええー? 篠宮さん、こんなのが好みなの? 篠宮さんのほうが百億倍美人だよ」  何を馬鹿なことをと言わんばかりに、結城が眉をしかめて即答する。いつも鏡で見ている顔と写真の女性を見較べて、篠宮は溜め息をついた。どちらが美人かと道行く人に尋ねたら、結城以外の全員が、この女性のほうだと言うに決まっている。 「そんな言いかたをするな。女性に対して失礼だろう」 「じゃあ俺が、篠宮さんの前でこの人のこと褒めちぎってもいいの? 俺がこの人と見合いしてもいいの?」  嫉妬心を煽ろうとでも思ったのだろうか、結城がわざとらしく身を乗り出して詰め寄る。その視線を避けるように、篠宮はくちびるを噛んで顔をそむけた。  君は、自分の子供が欲しいと思ったことはないのか。先日、結城にそんな質問をしたことを篠宮は思い出した。  あのとき結城は、恋人がそばに居てくれればそれだけでいいと言ってくれた。だが人の心というのは、いつまでも変わらぬものではない。  結婚して子供をつくり、すべてを次の世代に委ね、安心して人生の幕を閉じる。自分の存在が、彼のそんな平凡な幸せを奪ってしまうのではないか。このまま同性の恋人と人生を共にして、彼は本当にそれでいいのだろうか。若いうちは子供など要らないと思っていても、歳を取りいよいよこの世を去るという時になって、やはり自らの血をこの世に遺したかったと後悔するのではないか。  今のこの気持ちを正直に口にしたら、結城は自らの愛情が相手に伝わっていないのだと感じて、気を悪くするかもしれない。表情を読まれないように眼を伏せ、篠宮は小さく嘆息した。彼が心の底から自分を愛してくれていることは、身に沁みて解っている。それでも言わずにはいられなかった。

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