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花嫁姿

「えへへ。やっぱ可愛いー。篠宮さんの次に可愛いー」  公園の青々とした芝生を踏みしめ、結城がもう何度目か分からない『可愛い』を連発する。片手にぬいぐるみの入った袋を提げて、ご満悦の様子だ。 「まったく……子供か」  文句を言いつつも、楽しそうな結城の表情を見ていると、ついこちらまで顔がほころんでしまう。ずんぐりとした身体につぶらな瞳のペンギンは、たしかに誰が見ても愛らしく、見る人を和ませる愛嬌があった。 「……あ、篠宮さん。あれ、結婚式じゃない?」  そう言われて、篠宮は結城の視線の先を眼で追った。二列に並んだ人々の間を、新郎新婦らしき人が手をつないで歩いているのが見える。  篠宮も仕事上の付き合いで、何度か知人の結婚式に出席したことはあった。いったいいくら使ったのかと思えるほど、様々に趣向を凝らした豪華な結婚式にも出たことがある。華やかさでは及ばないものの、明るい太陽の下で花吹雪を浴びながら寄り添って歩く二人は、誠に初々しく美しく見えた。 「公園の中に結婚式場があるのか」 「そうらしいね。佐々木さんが式場のパンフレット集めまくってた時に、ここも候補に入れてたみたいだよ。へえー、アウトドアウエディングかー。いいなあ」  文字通り指をくわえ、結城が遠巻きに結婚式を眺め遣る。何を考えているか手に取るように分かり、篠宮は微かに苦笑した。 「そんなに羨ましいのか。今日みたいに晴れていればいいが、雨が降ったら目も当てられないぞ」 「なに言ってるの! 俺と篠宮さんの結婚式だったら、絶対に晴れるに決まってるよ。緑の芝生の上で鈴蘭のブーケを持って、ちょっと恥ずかしそうにうつむき加減で立つ、花嫁姿の篠宮さん……ああ……想像しただけで幸せ……」  結城が夢見るように眼を細める。篠宮は大きな溜め息をついた。自分が華奢な美少年ならいざ知らず、こんな可愛げのない男を相手に、よくもそんな妄想ができるものだ。 「人を勝手に想像に使うんじゃない。身長百八十四の男を捕まえて、気色の悪いことを言うな」 「えー。篠宮さん、絶対ブーケ似合うのに! 白のタキシードだって、誰よりも似合うのはもう実証済みでしょ?」  結城が子供っぽく口をとがらせる。その顔を見ていると、なんともいえず癒された気分になり、篠宮は口許に手を当てて笑いをこらえた。天気は良く、愛しい恋人はすぐそばに居て、そのうえ明日も休みだ。これで機嫌が良くならなければ嘘である。 「……あっちの端に行くと池があるらしいよ。バードウォッチングもできるんだって。行ってみる?」  結婚式の様子をひとしきり眺め終わると、結城は振り向いて芝生の遥か彼方を指差した。

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