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固い決意

「花嫁さん、幸せそうだったね」 「……そうだな」  篠宮は適当に相槌を打った。結城に較べると、篠宮はその半分ほどの視力しかない。正直なところ花嫁の表情など見えていなかったが、結城がそうだと言うなら、そうなのだろう。  夕焼けの光を頰に受けながら、篠宮は静かに窓の外を眺めた。彼方には、おとぎ話の城のようなテーマパークの建物が見える。茜色の空が、楽しく過ごした一日の終わりを彩ってまばゆく輝いていた。 「あの……篠宮さん」  微かに震える声が聞こえたのはその時だった。  どこかただならぬ雰囲気を感じ取って、篠宮は向かいの席に視線を移した。結城がいつになく真面目な顔で、膝に手を置きながらこちらをじっと見つめている。 「俺と……」  彼らしくもなく声を詰まらせてから、結城は再び、何か決心したように顔を上げた。 「俺と、その……結婚してください」  固い決意を感じさせる真摯なプロポーズに、篠宮の心が揺れ動いた。  結城の眼は真剣そのものだった。一時の気の迷いから出た言葉ではない。彼の瞳が自分ひとりだけを映しているのを見て、篠宮は身体中が温かい想いで満たされるのを感じた。彼は本当に自分を心から愛し、生涯の伴侶になってほしいと言っているのだ。そのひたむきな想いに胸が熱くなった。 「もちろん、法律の壁があることは解ってる。偏見の眼で見られることもあるかもしれない。でも、俺が必ず篠宮さんを護る。絶対に後ろめたい思いや、不自由な思いはさせないから」  そう告げると、結城は服が汚れるのも構わず、篠宮の前に両膝をついて手を差し伸べた。  微かに眉を寄せ、篠宮は結城のすらりとした長い指を見下ろした。この手を取れば、結婚に承諾したということになるのだろう。同性同士の婚姻が可能な国に移り住むか、とりあえず式だけを挙げ、法的なことは追い追いという形を取るか……どちらにしても、自分たち二人がさらに強固な絆で結ばれるのは間違いない。 「済まない、結城。そこまで言ってくれる君の気持ちは本当にありがたいと思う。ただ……やはり、結婚はできない」 「……え」  まさか断られるとは思っていなかったのだろう。篠宮がやんわりと拒絶の意志を伝えると、結城は予想外といった顔で掠れた呟きを洩らした。 「今度こそはいけると思ったのに……」  目に見えて落ち込み、彼はしょぼくれた顔で肩を落とした。  これだけ舞台を整え完璧なプロポーズをしたのに、受け入れてもらえないのは確かにショックだろう。捨てられた犬のような表情を見るとつい可哀想になり、篠宮は苦笑しながら慰めの言葉をかけた。 「ムードは良かったと思うんだが……」 「でしょでしょ?」  篠宮の言葉を聞き、結城は本当にそうだとばかりに身を乗り出した。おそらく、ムードに関しては絶対の自信があったに違いない。 「水族館で神秘的な雰囲気を味わって、公園では幸せそうな新郎新婦を見て、極めつけは夕焼けの綺麗な観覧車……俺に手落ちは無かった! そうだよね?」  うんうんと一人で頷いたかと思うと、結城は急に背すじを伸ばして真っ直ぐに篠宮の顔を見つめた。

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