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何回でも言う

「大丈夫? 風邪ひいたわけじゃないよね? 最近、季節の変わり目のせいか気温の差が激しいから、心配してたんだよ」 「風邪なんかひいてない。心配するな」 「そう? それなら良いけどさ。俺がいない間、ちゃんと身体に気をつけてよね。篠宮さんが体調崩したなんて聞いたら、俺、仕事放り投げて帰ってきちゃうからね?」  冗談めかした声でそう言って、結城はもういちど額にキスを落とした。 「あれ。いつもみたいに『馬鹿!』って言わないの? やっぱ今日の篠宮さん、なんか変だな。いつもなら、俺がそんな不真面目なこと言ったら、すぐ怒って説教するのに」  いつもに増して口数の少ない篠宮に、結城が眉を寄せて不審そうな顔をする。篠宮は慌てて首を振った。 「そんな事は言わない。君が真面目に仕事しているのは、私もよく知っている」 「じゃあなんでそんな機嫌悪そうな顔……あー、解った。さては、早くこれが欲しいんでしょ? 俺が無駄話ばっかりしてるから、苛々しちゃった?」  腰に巻いたタオルを取り、結城がそこに隠れていたものを誇示するように見せつける。 「大丈夫、すぐあげるからね。でもその前に、篠宮さんの綺麗な身体、ぜんぶ見せてよ。出張に行く前に、篠宮さんの身体の隅々まで、忘れないようにこの眼に焼き付けてきおかなきゃ」  ベッドに片膝をつき、結城が邪魔な布団を取り去ろうとする。ぴくりと肩を震わせ、篠宮は掛け布団の上端をぐっと押さえこんだ。 「えっと……篠宮さん。どうしたの?」  結城が再び首を傾げる。ついに観念して、篠宮は正直な思いを口にした。 「恥ずかしい……」 「ええっ。恥ずかしいって……今?」  結城が素っ頓狂な声を出す。篠宮は耐えきれずに顔をそむけた。結城が驚くのも無理はない。もう何度もこの部屋で身体を重ね、そのたびにあられもない姿を彼に見せているのだ。金曜の夜は愛を確かめ合うと決まっており、風呂から上がった後はこうして全裸で相手を待つのも、いつものことである。 「いや、その……上手く言えないんだが。最近、仕事中に君と会うことが少なくなっただろう。なんとなく、君との接しかたに自信が無くなったというか、どう振る舞っていいか分からないというか……仕事で他の人と顔を合わせる機会も多くなったのに、君がいまだにこうして私を求めてくれている事が、信じられないような気がするんだ」 「やだなあ。篠宮さん、そんな風に思ってたの? たしかに仕事が忙しくなって、顔を合わせる時間は減っちゃったかもしれないけど、俺は何も変わらないよ。篠宮さんのことが大好きだし、世界でいちばん魅力的だと思ってる。こんなに綺麗で可愛いんだから、篠宮さん、もっと自分に自信もってよ。篠宮さんが不安になってると思ったら、俺、おちおち出張にも行けないよ?」 「あ、ああ……済まない」  結城は本当に自分のことを想ってくれている。その事実を改めて噛み締めながら、篠宮は掛け布団を胸許まで下げた。心臓がどきどきと波打っているのが分かる。自分も彼を愛し、彼を欲しいと思っているのだ。そのことを痛いほど感じた。 「篠宮さん……好きだよ。本当に好きだ。綺麗で可愛くて意地っ張りで、クールに見えるけど実は情熱的で、恋愛に関しては信じられないほど奥手な篠宮さん。何回でも言う……大好きだよ」  胸の突起を指先で優しく撫でながら、結城が耳許で愛の言葉を囁く。  仰向けになって身を任せつつも、篠宮は迷うようにもぞもぞと手足を動かした。素直にキスを返して愛していると伝えれば、結城はきっと喜ぶだろう。それが分かっているにも関わらず、胸の奥にしつこく残る羞恥心のせいで積極的になれない。 「えへへ、ほんとに恥ずかしがってるー。可愛い」 「君が恥ずかしいことを言うからだろう」 「俺がいつ恥ずかしいこと言ったのさ。俺が篠宮さんを好きっていうのは、本当のことだもん」  締まりのない笑みを浮かべ、結城が少しずつ布団を剥ぎ取っていく。その下に隠された身体が露わになると、結城はさっそく篠宮の背中に手を伸ばした。首筋から肩甲骨にかけてのなだらかなカーブを描く場所は、篠宮の大きな弱点のひとつだ。ここにキスをされると、声が抑えきれない。 「い、いや、あっ……」 「どう? 恥ずかしくなくなった?」 「や、恥ずかし……んんっ」 「うーん。まだ駄目かあ。恥ずかしいのなんかぜんぶ忘れて、俺に夢中になって、もっともっとっておねだりしてほしいんだけどなあ」  とんでもないことを言いながら、結城がくちびるに指を当てて思案顔になる。不意に何かを思いついたように、その眼がきらりと光った。 「あ、じゃあさ。もっと恥ずかしいことしちゃおうかな」  口の端をゆがめたかと思うと、結城は篠宮と逆方向に頭を向けてベッドに横たわった。篠宮の腰の辺りに顔を据え、すでに大きくなりかけていたものをためらいなく咥えこむ。  温かい粘膜にいきなり包みこまれ、篠宮は呻き声を上げた。幹の部分をくちびるで扱かれ、先端を舌でつつかれる快感に、先ほどまで感じていたはずの羞恥心がどこかに追いやられていく。

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