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第54話

三年生で一番片付けが遅かったのは、杉原先輩の三年二組のでした。 十三時回って、ようやく先輩のクラスのHRが終わりました。 それなのに……おかしいです、杉原先輩が教室から出て来ないのです。 気になってしまい、三年二組の教室を覗いてみたのですが、杉原先輩は自分の席でじっとしていました。 私が来てるのに気付いていなさそうですよね? それとも約束忘れてしまったのでしょうか? と、少しだけ不安になり、私は身を乗り出して覗き込んでみてしまったら……。 「あっ!!笹倉だ!」 「えっ?!」 杉原先輩ではない先輩に見付かってしまって内心焦ってしまいましたが、……平常心です、表情には出さないように私は笑顔を作りました。 「叶ちゃんがまた来てくれた!!」 「どうしたの?笹倉」 一気に人が集まってきてしまい、私は怖くなってしまいました。 やはり人混みは苦手ですが、言わなくては……。 「あの、私は杉原先輩に会いにたので……」 ……間が出来てしまいました。私は何か悪いことを言ってしまったのでしょうか? 「なーんだ。叶ちゃんもやっぱりイケメンが好きなのか」 「おい、杉原!!笹倉のご指名だぞ」 『いいよなイケメンは』と先輩方が杉原先輩に声をかけてくれているのに、 「叶が来てるのは知ってるよ?」 なんでしょう……、私に気が付いているのでしたら、声をかけてくれればいいのに!! それなのに杉原先輩は笑顔で、まるで私が訪ねてくるように仕向けているみたいでした。 「……杉原先輩っ」 私は声をかけると、先輩はニコニコと笑って、 「今日は叶が『俺に』用事があって訪ねてきたんデショ?いいよ、おいで叶」 そう言うと、杉原先輩は席の前の椅子を引いて手招きしています。 ……杉原先輩は、『いつも私にしていることを、私にさせようとしている』んですね。 でしたら受けて立ちます!!負けるものかと、私は勇気を振り絞って、 「失礼します」 三年二組の教室に入り、杉原先輩の席の前の椅子に座りました。 ……視線がとても痛いです。 そんなに見ないでください、先輩方。 私は多分『借りてきた猫』状態でしょう、本当にビクビクしていると思います。 とても居辛くて心細くて……緊張しています。 「あの、……すぎはら……せんぱぃ?」 この状況をどうにか助けて欲しくて、私は杉原先輩の様子を見ながら名前を呼ぶと、杉原先輩は肩を震わせて笑いを堪えていました。 「ぐっ……ふ。こんな叶も可愛いね」 私は杉原先輩に遊ばれているようでした。 ですがこんな状況も初めてのことで、どう反応したらいいのか分からず、馬鹿みたいにポカンとしていたと思います。 「今、叶はいつも俺がしてたことを、初めてしただけなんだ」 「……ぇ?」 「俺がどんな気持ちで、毎日叶のクラスに通ってるのか理解出来たね」 『居辛いデショ?』と満足そうに笑ってる杉原先輩が、今物凄く憎いです……。 「杉原先輩」 多分誰も聞いたことがない低い声で私は呼びました。 まさか自分でもこんな声が出せるなんて知らなかったです。 自分でも驚いていたら、杉原先輩はまたあの困ったような笑顔で笑っていました。 「これ以上叶を弄ったら可哀想になっちゃうから、やめとくいてあげる。ほら、行くよ?」 そう言って杉原先輩のと私のスクールバッグを軽々と片手で持ち上げて、もう片方の手で私の手を取りました。 本当に杉原先輩には振り回されてばかりで、私はどうなってしまうんでしょうか? 憎い……と一瞬は思いましたが、『特別』なのには変わりませんでした。

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