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第58話

「でも可愛いかった。俺が守らなきゃと思っちゃった」 杉原先輩は私の後頭部を片手で固定すると、 「俺の背中に手、回してから目ぇ閉じてくれる?」 恥ずかしいですが言われたままの行為をしてみたら、先輩が覆い被さるような感じかしました。 薄い温かいものが私の唇に重なりました。 確認するまでもない、それは毎日繰り返してきたキスです。 ですが今までの強引さも、荒々しさも、激しさもない、キスでした。 ちゅっ……と音をたてて離れるとき、内心は物足りませんでした。 それを杉原先輩また見透かしているように言いました。 「物足りないデショ?」 ……私は先輩の離れた片手を縋るように、見つめました。 「これも恋愛の楽しみだよ。全部求めたら飽きちゃうんじゃない?叶の『特別』は一生俺だけのものにしたいからね」 私はこう言えてしまう先輩にも憧れてしまいます。 自分にはとても縁がないものに惹かれてしまうようです。 「曇りの日は優しく、ゆっくりしよう」 ……何かいつもより顔が熱くなるのがわかりました……。 「叶は物足りないのはヤダ?」 「そんなことはないです」 これは照れです、……味わったことのないくらいの羞恥です。 「そう。叶は『可愛い』ね」 杉原先輩は今日は穏やかに帰っていきました。 私は門から先輩を見送りました。 (先輩がしてる『恋愛』って奥が深いんですね……) 今までの私には、とてもとても無縁で考えもしていない体験を今私はしています。 今日は色々な一面の杉原先輩が見れて、とても楽しかったです。 (曇りの日も悪くないかもしれないです) 天気を気にしないで明日が来るのが楽しみなのは、いつぶりでしょうか? 私は今日手に入れてきた洋服のタグを外して、ハンガーに掛けてからベッドに入り早めに就寝しました。

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