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第66話
『ホテル』の文字が書かれてあった路地の奥の建物が、急に日本の大きめで古そうな家屋立ち並ぶ所に入ってきて私は驚いてしまいました。
「うわぁ!!……何かとても凄い町並みですぅ」
私がそう思ったことを言葉にしたら、杉原先輩が笑顔になる。
「まさかラブホ街の先にこんなところがあるなんて、地元民しか知らないと思うよねぇー」
まさに『ワビサビ』というか……純粋な日本という感じで、私には無縁な世界に入ってしまった気分でした。
そして先輩はこの辺りで一番のとびきりの日本風情のある門を叩いてました。
「ごめんくださーい」
「……先輩のお知り合いのお宅なんですか?」
杉原先輩は笑顔で『そう』と答えた。
「どちらさまですか?」
中から女の人の声がしました。
「小雪さん?俺」
先輩から女の人の名前が出てきて……何か切なくなりました。
「あら、俊さん?」
柔らかそうな声が帰ってくる。
「そう。近くまで来たから寄りたくなって」
「お一人ですか?」
『小雪さん』という人の声は凄く先輩と親しそうでした。
「小雪さんが会ってみたいって言ってた『叶』も一緒だよ」
……え?
「きゃー!!嬉しい!後ろ回ってください。今開けます」
杉原先輩は人気のない建物の裏に入っていきます。
私は黙って見ていました。
「何してんの、叶。ついて来るんデショ?」
「……はい」
お話の先が見えず、よく分からないのですが、連れていく先ですから後に続いていきました。
裏の小さな扉に回ると木の扉が開き、とても美人な女の人が手招きています。
「おいでなさいな」
……あれ?
何かこの仕草は何処かで見たことがあります。
……けれど直ぐには思い出せません。
杉原先輩は『お邪魔しまーす』と入っていくので私も続いて『失礼します……』と入っていくと、『小雪さん』は急いで扉を閉める。
『小雪さん』はそのままその家に入っていきます。
「俊さん、『叶さん』連れてくるときは絶対に前もって連絡してくださいってあれほど言ったのに」
「だってさー、あの映画館でデートしててさ小雪さんのこと話題に出したら、不安がっちゃって」
「兄さんが本家に行っていて留守でしたから、私一人で寝巻きでぐうたらしてたのに。第一印象は大切なんですよ?!」
あれ?今凄く重要なことを先輩は話してませんでしたか?
「……杉原先輩、この方は……もしかして」
杉原先輩はにっこりと笑顔で答えてくれました。 「うん、俺を産んでくれた『母親』だよ」
「……先輩、大切なことは先に言ってくださいっ!!」
「だってさー、叶ってば勝手に落ち込んで、勝手に考え込んじゃうんだもん。連れてくしかないデショ」
……私は一気に脱力感でいっぱいになってしまいました。
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