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第82話

「俺はつまんなくて悪かったねぇ、光さん」 「 杉原先輩っ!!」 私は先輩の登場に安心しました。 「……先輩のご家族ですか?」 「まるっきり赤の他人。小雪さんの『お兄さん』のただの『愛人』」 『愛人』……。 この人も男の人ですよね。 先輩の質問の答えに男の人も否定しないので、本当にそうなのでしょう。 「光さん、この子は俺の後輩の『笹倉』くん」 先輩ニッコリ素敵に笑ってそういうと、男の人『光さん』もニッコリ笑っています。 「へぇ、この子が『笹倉 叶』くんか。なら今日は何も遊ぶ用意してないから退散するわ」 ……ひょっとして、『笹倉』の名前に反応したのでしょうか? ですがそれを聞く前にお風呂場から去ってしまいました。 その男の人『光さ』んが脱衣場からも去って行くと、先輩は内鍵をかけました。 ……何故鍵をかけるのですか? 「まったく、叶って結構受難なの?」 『油断できなくて参っちゃう』と言いながらも、足袋を脱いでいます。 「杉原先輩も一緒に入るつもりなんですか?……今っ?!」 私は先程自分の気持ちに気が付いたばかりなので、困ります!! 今入ってこられたら私は逃げ場が無くなります!! 「先輩、お風呂私出ます!!」 私は慌てています!! 慌てているのは自分でも自覚しています!! 「叶の着替えはまだないから、出たら裸だよ?寒いし止めておいたほうがいいよ」 「ですが……、本当に困ります!!」 それでも先輩は着物を脱ぐ手を止めてくれません。 「なにもしないよ。一緒に入りたいだけ」 それが困ってしまうんですって……。 広い浴槽で私は杉原先輩を見ないように背を向けて小さくなりました。 ガラッっとお風呂場の扉が閉まった音がして、ヒタヒタとタイルの上を歩く音が聴こえてきて……私は更に身を固まりました。 ……けれど、桶でお湯を掬ってサバァッっとかける音しかしません。 そのあとポンプを二・三回押す音がして……髪を洗う音がしました? 私は確認のために、少しだけ……本当に少しだけ先輩が何をしているか確認したら、やはり髪を洗っているだけでした。 (本当になにもされないのでしょうか?) 一昨日保健室で見た先輩の体は、本当に無駄な脂肪はなく綺麗に筋肉が付いていました。羨ましい身体つきで、少しだけ見るつもりでしたが魅とれてしまっていました。 「なぁに見てんの?」 『叶のえっちー!!』と言われると私は、顔が熱くなりました。 「見てなんかないです」 「ウソー。ここの鏡で、叶が見てたの見えてたし」 先輩側にある鏡に私は気が付いて、一瞬だけその中で目が合い私は背を向けました。 「……ごめんなさい」 「なんでぇ?ムリに入ってきたんだから、俺がゴメンね?デショ」 「……違うんです。私から色々沢山ごめんなさいがあるんです」 私はここで言うことにしました。ここなら誰にも聴かれることもない上に、『お風呂は命の洗濯』と言います。 ここが最適だと思います。 身体は裸ですから、心も裸になれる……そんなことを思ったからです。

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