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第3話

 その日、小屋の横に作った菜園で作業をしていたラウールは、かすかな血の匂いに顔を上げた。いぶかしく眉を顰めて周囲を見回すが、森は静かだ。勘違いかと思いつつ、意識を研ぎ澄ませる。すると遠くから、何かがきしむ音が聞こえた。  家に入って剣を掴み、音の聞こえた方向へ走る。きしむ音が木の幹をえぐる音だとわかり、血の匂いも強くなってきた。低い唸り声も耳に届く。  鋭い馬のいななきがして、ラウールは足を速めた。このあたりに野性の馬はいない。傍には必ず、人がいる。 「無事か!」  叫びながら鞘を払ったラウールの目に、猿に似た魔物に襲われているミクリアの姿が映った。興奮した馬の手綱を掴んで、必死に振り落とされまいとしている。太もものあたりの布が裂けて、血が流れていた。 「ラウール!」  助けを求める声音ではなく、どうすればいいと問う気色に、ラウールはニヤリとした。傷ついてもなお怯えを見せないミクリアには、見所があると感心する。同時に、王妃ジーナに似た彼を傷つけた魔物に対する怒りが湧き上がった。 「逃げろ!」 「でも」 「邪魔だ!」  鋭く言って、ラウールは魔物に対峙した。 「狭い場所で、うろつかれると気が散る」 「私では、役に立たないのですね」  うめいたミクリアが馬首をめぐらす。逃すまいと飛び掛かる魔物に、ラウールは突進した。切っ先が魔物の腕を切り裂いて、鮮血が舞い上がる。木の葉を通した柔らかな陽光に血の匂いが混じった瞬間、ラウールの中で何かが弾けた。 「おぉおおおおお!」  激しい破壊衝動のままに、ラウールは魔物を容赦なく切り刻み、血濡れた肉塊に変えた。 「はぁ」  息を抜いて、さほど乱れてもいない呼吸を整える。大地に沁み込んでいく魔物の血をながめて、ラウールは軽くかぶりを振った。 (今の姿を、見られていなければいいんだが)  竜の血を浴びてから、獲物と認識したものに対する容赦を持ち合わせなくなってしまった。息の根を止めなければ気が済まない。油断や情など一切忘れて、獣が獲物を捕らえるがごとく、刃を奮ってしまう。 (こんな有様では、近衛騎士など務まらない)  魔物相手ではなく、これが盗賊などの人間相手であったらと考えれば背筋が冷たくなる。我を忘れて戦闘衝動に滾る姿など、誰にも見せられない。 (しかし、こんな所にまで魔物が出てくるとはな)  他の魔物との縄張り争いに負けて、追い出されたのか。念のため、足取りを逆にたどって警戒をしておこうと、木の幹にある獣の爪痕に手を当てたラウールは、血を流すミクリアの太ももを脳裏に浮かべた。 (しばらくは、来ないだろうな)  そのまま来なくなればいいと、一抹の寂しさを感じながら森の奥へと進んでいった。  予想通り、魔物は森の奥深くから追いやられて出て来ただけのようだった。人里に危害が出そうな気配はない。しかし、と、ラウールは己の内側でフツフツと湧き起こる狂暴な情動を発散するのと同時に、魔物にここから先は危険だと知らしめるために、贄となる魔物を求めて分け入り、彼等の領域と人の領域の境界に血肉の匂いをまき散らした。 (ああ)  いつか人の脅威になるかもしれない自分の狂情に、憂鬱な息を漏らす。川で血を洗い流して小屋に戻ったラウールは、食事をとる気にもなれずに床に入った。  翌日、目覚めて朝食の準備をしていると、ノックがされた。こんな時間に人が訪ねてくることは初めてで、ラウールはいぶかりながらも扉を開けた。 「昨日は、ありがとうございます」 「ミクリア。傷は、いいのか」  まぶしそうに目を細めたミクリアの姿に、ラウールは目を大きく開いた。無事を伝えるために、本人が早朝に現れるとは。 「ひとり……なのか」  彼の背後に目を向けて人の姿を探したが、見当たらなかった。馬も一頭しかいない。 「ええ。あなたの所へ行くのに、何の危険もないでしょう?」 「昨日、襲われたばかりなのに不用心だな。誰も止めなかったのか」  王子をひとりで森に行かせるだけでも不用心なのに、襲われて怪我をした翌日に出すなんてと言いかけて、口をつぐんだ。ミクリアはまだ、ラウールが彼の正体に気づいているとは知らない。だから気づいていないふりで、彼を呼び捨てにしているのだ。 「下っ端の騎士が、これしきの傷で外出を控えるなんて、臆病者だとそしられます。それよりも救ってくれたラウール様に礼を言い、稽古をつけてくれるよう頼めと言われました」  軽く肩をすくめたミクリアのおどけた様子に、ラウールは眉間にシワを寄せた。 「傷の具合は」 「正直、少し痛いです。なので入れてもらえるとうれしいんですけど」  軽く体を引いて、ラウールは彼を招き入れた。 「朝食の準備中でしたか」 「おまえは、もう済ませたのか」 「いえ。すぐにお礼を言いたかったのと、あわよくば一緒に食事をしながら話ができればと思って」  ミクリアは右手を持ち上げて、麻袋を見せた。 「パンとチーズ。それと燻製肉を持ってきました。果物もあります。もちろん、ふたり分。足りないものは、お茶だけです」  うなずいたラウールは、座っていろと告げて暖炉にかけているスープの鍋を確認した。ふたり分はあるなと、椀を手にしてよそう。  席に着いたミクリアは、持ってきた食べ物をテーブルに並べていた。用意のいいことに、木皿も麻袋から出している。 「ひとり暮らしなので、私の食器は無いかもしれないと思って」  言いながら、小型ナイフとフォーク、コップまで出した用意の良さにラウールは噴き出した。 「これとは別に、お礼の品も持ってきました」  酒瓶がテーブルに乗せられる。 「重いものは、傷に障るんじゃないのか?」 「このくらい、大丈夫ですよ。ほとんど馬の上でしたし」 「そうか」  スープの椀をテーブルに乗せて、ラウールは茶の準備にかかった。すべての準備を終えて、食事を始めればあらためて礼を言われる。 「本当に、危ないところでした。ありがとうございます。でも、あの魔物はどうしてあんなところにいたんでしょう」 「縄張り争いに負けて、追い出されたんだろう。森の奥に確認に行ったが、人里に危険が及ぶ気配はなかった」 「ラウール様が森に住んでいるのは、魔物が町や村に出るのを防ぐためでもあるんですね」  尊崇の眼差しを向けられて、面映ゆくなる。 「そんな、たいそうなことじゃない」 「騎士としては、まだまだこれから活躍できる……というか、王都の誰もラウール様にはかないませんよ」 「買い被り過ぎだ」 「いいえ。昨日の姿を見て、確信しました。あなたは最高の騎士です。猛々しくて、美しくて……私の心を捉えて離さない……昔のままに」  うっとりと語るミクリアの笑みに妖しい艶を見つけて、ラウールは眉をしかめた。 「野生の獣のようでした。魔物を退治して、森の奥に進むラウール様の姿に、ゾクゾクしましたよ」 「な、に?」 「応急手当をして、後を追ったんです。私の気配に気づかなかったなんて、驚きでしたけど。まっすぐに前だけを見て、獲物に挑む姿は最高に美しかった。あれほど美しい獣を、私はかつて見たことがありません」  立ち上がり、テーブルを回って近づくミクリアを見上げるラウールは、体の変化に気がついた。 (なんだ……体が、浮いている気がする) 「薬が効いてきたみたいですね」 「薬、だと?」 「ええ。軽い麻酔に似たものだと思ってください。筋肉を弛緩させるものです。パンに練り込ませていただきました」 「なぜ、そんな……俺を、脅威だと考えたのか」  人々の恐れは、竜の騎士を暗殺するまでに高まっていたのかと、ラウールは顔をゆがめた。 「脅威? たしかに、あなたは脅威かもしれません。狂暴な魔物に匹敵する身体能力を持っているのですから。竜の騎士が森に追いやられたのは、竜を倒した力量を恐れる人々の心を気にしたからですよね。私はそれが許せない」  剣呑な光がミクリアの瞳にきらめく。 「ならば、どうする。王宮に伝説の騎士として飾っておくつもりか? 脚の腱を切り、戦えないようにして」 「まさか! もったいない。あなたほど美しい獣を不自由にするなんて、あり得ませんよ」  声を跳ね上げたミクリアの手が、ラウールの頬にかかった。両頬を手のひらで包まれて、顔を寄せられたラウールは、澄んだ美貌の彼の瞳に不穏な炎の揺らめきを見た。 「なら、どうする?」 「気がついたんです。あなたが私を襲った魔物を屠った後、さらなる獲物を求めた理由に。ラウール様は、野性の情動に目覚めてしまったんだと。強大な魔物を退治する時は、己も魔物にならざるを得ない。だからあなたは、国を守るために魔物になった」  息を呑んだラウールの喉を、ミクリアの指が慈しむ。 「血に飢えた獰猛な情動を恐れて、森に逃げたんですよね? なんて健気で愛おしい人なんだろうと、胸が震えました。優しくて、哀れで、美しい獣がたまらなく欲しくなってしまいました」  喉仏をくすぐったミクリアの指は鎖骨を滑り、胸筋の盛り上がりをなぞって小さな突起を弾いた。 「浅ましい私の情欲は、ラウール様を助けることにもなるんです。知っていますか? 性欲と戦闘欲は互換が可能らしいんですよ。だから、私がラウール様の戦闘欲を性的に満足させれば、あなたはもう誰かを傷つけるかもしれないと、怯えなくてもいいんです」 「何を、言って……ミクリア?」 「わかっているんでしょう? 理解をしたくないだけです。信じられないから、私の言葉を受け止められないんですね。仕方ないですよ。あなたはきっと、誰かに抱かれるかもしれない、なんて考えた事もないでしょうから」 (抱く?)  何を言っているのかと、ラウールは弛緩した体を動かそうとした。イスが傾き、バランスを崩して床に倒れる。 「うっ」 「ああ! 大丈夫ですか、ラウール様。だけど、床に寝ていただけたのは、ありがたいです。これで、事を運びやすくなりましたから」  唇を舐めたミクリアの手が、ラウールのシャツをまくりあげる。胸筋の上に布が溜まると、たくましい盛り上がりが強調された。 「ずっとずっと、触れたくてたまらなかったんです。鍛え抜かれた、しなやかなあなたの肌に。はちきれそうな筋肉に」  歌うような音色で言葉を紡ぐミクリアは本気だと、ラウールは戦慄した。逃げようと手足を動かすが、力が入らずに床を這うことしかできない。 「怖がらないでください。たっぷりと、優しくして差し上げます。あなたは私の憧れであり、最上の愛の対象であり、極上の騎士なのですから」 「よせ……何も、こんな色気も無いような中年の男を抱かなくても、おまえならいくらでも相手は見つかるだろう」 「私が抱きたいと劣情を向けるのは、ラウール様だけなんですよ」 「バカな! うっ」  キュッと股間を握られて、ラウールは息をつめた。布越しにやわやわと揉みしだかれて、顔をゆがめる。 「私のような、あなたよりもずっと細くて頼りない男に抱かれるなんて、不本意かもしれません。ですが、そんな気持ちも忘れるくらいに、心地よくさせますから……どうか、身をゆだねてください」 「は……ゆだねるも何も、薬で動けなくしておいて」  鼻先で笑うと、申し訳なさそうに眉尻を下げられた。 「こうでもしないと、受け入れてもらえませんからね。ですが、これは双方にとっていいことなんですよ。あなたは情動を怖がらなくてもよくなるし、私は長年の想いを遂げられるのだから」  目じりをとろかせたミクリアの妖艶な気配に本気を感じて、ラウールは慄いた。布越しにクルクルと股間を撫でられ、胸筋をまさぐられる。胸乳に顔を寄せられて、尖りを口に含まれたラウールは唇を噛んだ。 「ん、ぅ」  手足の指を握りこみ、抵抗しようとしてみるが、薬のせいで力が入らない。その上、体全体で抑え込まれているので、体を揺らして振り落とすこともできなかった。柔和な容姿と雰囲気から、剣呑な事柄には疎そうだが、仮にも王子なのだから、護身術の心得はあって当然だ。 (観念するしかないのか)  抵抗をしても止められそうにないと、彼の様子から察したラウールは奥歯を噛みしめた。 (犬に噛まれたとでも思って、やり過ごすか)  男同士の行為について、たいして嫌悪感は持っていない。同僚同士で慰め合い、絆を深める事は推奨されていた。ラウール自身は未経験だが、同僚や部下でそういう関係になっている者もいるし、誘われたこともある。特別な間柄になれば、より強い信頼関係が生まれるからだ。 (まさか、下になるとは思わなかったが)  深く息を吸い込むと、細く長く吐き出して心を静める。胸先に舌を絡ませるミクリアの唇は、笑みを浮かべていた。 (母親に甘える子どもみたいだな)  フッと鼻から息を漏らすと、心の奥からふんわりと温かなものが湧き起こった。彼の容姿が憧れの花である王妃に似ているからか、それとも少年期の彼と親しくした記憶があるからか。  受け入れる覚悟を決めたラウールの、気配の変化に気づいたミクリアが顔を上げた。  不思議そうな顔をされて、ラウールはニヤリと片頬を持ち上げる。 「好きにしろ」  目をパチクリさせたミクリアの満面に、ゆっくりと喜色が広がっていく。 「はい! 好きにさせてもらいます」  声を弾ませて、ふたたび胸に顔を伏せたミクリアの舌に胸の色づきをなぞられて、中心をキュッと吸われたラウールは小さくうめいた。それがうれしかったのか、ミクリアはチュクチュクと唇で吸いつきながら、もう片方を指で転がし、股間をさすった。  じわじわと雄の部分に熱が集まる。ここのところ、自慰すらもしていなかったなと、ラウールは愛撫を受けながら、ぼんやりと考えた。振り返れば、竜を退治してから、性欲を覚えなくなっていた。戦闘欲を情欲に変えると言ったミクリアの提案は、理にかなっているのかもしれない。 「っ、ふ……ん、ぅ」  肌の上に淡く官能のさざ波が広がって、ラウールは喉を鳴らした。いい加減、舌が疲れるのではと思うほど、ミクリアは丹念に乳首を味わっている。 「は、ぁ……ぁ、ふ」 「気持ちいいですか? ラウール様」  問いかけにどう答えていいかわからず、ラウールは無言を返した。返事がもらえるとは思っていなかったらしく、ミクリアは重ねて問うことはしなかった。左の胸先をたっぷりと濡らした唇が、右に移動する。濡れた乳首が小さく震えて、じんわりと甘い疼きが生まれた。 「んっ、は……ぁ、ふぅ」  執拗にいじくられる乳首が、ぷっくりと膨らんで存在を主張している。陰茎を意識することはあるが、胸先を気にしたことはない。初めての感覚に、ラウールはとまどった。 「っ、ふ……ぁ」 「ふふ……ラウール様。乳首で感じるのは、初めてですか? 誰にも、ここをいじられた事がないんですね」  うれしげなミクリアの息が濡れた乳首にかかるだけで、かすかな快楽が泡のようにパチンと弾けた。 「じっくりと、淫らに目覚めさせてあげます……ラウール様」  甘美な響きに、ラウールの背骨に蜜に似た悪寒が流れた。己が作り変えられる予感に、このまま好きにされてはいけないと脳内で警告が鳴り響く。 「ミクリア……俺は」 「嫌だ、なんて言わせません。好きにしていいと言ったのは、あなたですからね? じっくりと時間をかけて、愛しますから。そのために、朝食も食べずに来たんですよ」  小首をかわいらしく傾けて、ミクリアは手と口を動かした。執拗にねぶられる乳首が股間のもの以上に熱く疼いて、ラウールはとまどった。 「ふ、はぁ……あっ、ん、ぅ」  股間にあったミクリアの手が胸乳に移動し、胸筋の盛り上がりを内から外へと円を描くように揉みこまれた。胸への刺激が血流に乗って股間に走り、ラウールの欲の脈動はズボンを突き破らんばかりにみなぎった。 「んっ、く……ミクリア……あっ、ふ」  我知らず、身をくねらせたラウールのたくましい腹筋に、ミクリアの腹が押しつけられる。盛り上がった股間が擦れて、ラウールの脳髄に一瞬の閃光が走った。 「はっ、ぁあ」 「イキたいんですね……こんなにゴリゴリに硬くして……ああ、色っぽいです。すぐにでも絶頂の表情を見せていただきたいところですが、まずは、ココでイクことを教えてさしあげます」 「ヒッ」  キュッと乳首をつねられたラウールの喉から、高い悲鳴が上がった。クスクスと笑いながら、ミクリアは両方の乳首を責め続ける。爆発寸前にまで育ったラウールの雄は、先端から液を溢れさせた。 「ん、ぁ、ミクリア……あっ、ぁ」 「ふふふ……物足りないって顔ですね、ラウール様。すごく、そそられます……今すぐにでも、あなたの内側に私を埋めて、思うさま貪りたい……ですが、そんな自分本位な行為は、したくないんです」 「は……ん、ぁ、薬で……動けなくしておいて……っ、言うセリフじゃない、な」 「だからこそ、ですよ。あなたの苦悩を取り払うためとはいえ、卑怯な手を使いました。だからせめて、最高に気持ちよくなっていただきたいんです」  左右の胸の実を根元から強くひねられ、ラウールは目の奥で火花を散らした。 「ひぁっ、は、ぁ、あああっ」  衝撃に背をそらせ、跳ねた腰がブルルと震えて陰茎が荒れ狂う。そのままグリグリと乳首を捏ねられ続けて、ビクンビクンと激しく痙攣しながらラウールは果てた。 「は、ぁあ、あ……あっ、あ」  絶頂の余韻に喉を震わせるラウールの唇が、ミクリアの舌になぞられる。 「乳首だけで、イケましたね……ズボンにまでシミが広がるくらい、いっぱい出していただけて、うれしいです」 「ひぅっ」  グリッと膝で股間を押し上げられて、ラウールは悲鳴を上げた。乳首はまだジンジンしていて、放ったばかりの陰茎は不足を訴えて疼いている。 (なんだ、これは)  精を漏らしても満足をするどころか、飢えた劣情がわだかまっている。 「ラウール様……ああ」  恍惚としたミクリアの吐息をキスと共に注がれて、舌で口腔を蹂躙されれば体中が淡く疼いた。体の奥に眠っていた何かが、甘美な熾火となってくすぶっている。まさぐられる口内が気持ちよくて、意識が快感に溶けていく。 「ふ、はぁ……ん、ぅ」  たっぷりと濃厚なキスを受けつつ、滑らかな手つきで脇腹から腹筋、腰のあたりを撫でられてゾクゾクした。ズボンに指がかかり、下着ごとずらされて自らの液で濡れた急所を取り出された。 「これが、ラウール様の……ああ」  感嘆の声を上げたミクリアに、ズボンをすっかり脱がされて太ももを開かれる。まじまじと見つめられて羞恥が湧いた。 「っ、見て、楽しいものでもないだろう」 「いいえ。楽しいですよ。ラウール様の欲の象徴ですから。ああ、こんなに濡れ光って……ふふ、ラウール様の欲の匂い」 「なっ、ミクリア……っ、う」  ためらいもなく口に含まれ、ラウールは目を見開いた。先端のクビレにミクリアの唇をかぶせられ、切っ先を舌先でくすぐられる。 「は、ぁ……っ」 (なんて光景だ)  清らかな顔つきの彼の口から、醜悪な欲の象徴が伸びている。倒錯的な姿にラウールの陰茎は脈打った。視界の刺激が脳を揺さぶり、劣情が煽られる。 「やめろ、ミクリア」  半勃ちの熱をしゃぶりながら、ミクリアは首を振った。唇でしっかりとクビレを含んで、乳を吸う赤子のように先走りをチュクチュク飲まれて、ラウールは興奮した。 「っ、あ……ミクリア……は、ダメだ……それは……あっ、あ」  秀麗な彼の口から己の欲が覗いている。見てはいけないと思うのに、目を離せない。欲望はムクムクと成長し、ピンと張り詰めて脈動した。するとミクリアは頭を上下し、口のすべてを使ってラウールを扱き上げた。 「ん、ぁ、ミクリア……っ、は、ぁ……やめろ……っ、う」  止めようと手を伸ばして彼の頭を掴んだが、薬と快感のせいで押し返すほどの力は出ない。 (このままでは、口の中に出してしまう)  頭をよぎった自分の言葉に薄暗い興奮を煽られたラウールは、必死に腰を揺らして逃れようと身もだえた。 「やめっ、ぁ、ミクリア……っ、は、……ダメだ……ぁ、出る……っ、から、離せ」  訴えれば訴えるほど、ミクリアの口淫は激しくなった。飲む気なのだと察して、淫猥な歓喜にゾッとする。 (俺は……飲まれたい、のか)  まさかそんなと否定をするが、肉欲は素直に高まり続けた。 「もう、いい……わかった、から……代用ができると、わかったから……そこまでする必要は、ぁっ、あ……ひっ、ぁ、あううっ」  グリッと蜜嚢の裏を刺激されて、ラウールは仰け反った。陰茎を吸われながら蜜嚢を押し上げられて、意識が白濁した輝きに溶けていく。 「は、ぁあうっ、ぁ、そこ……っ、あ、はぁ、あ、ダメだ……ダメ、あっ、ぁ、あぁあああっ!」  理性が欲に押しやられ、本能のままにラウールは達した。ジュルッと音を立てて、ミクリアは筒内の残滓も吸い上げる。すべてを吸い上げられる悦楽に包まれて、ラウールは目を閉じた。 「は、ぁ」  脱力したラウールの頬がつつかれる。目を開ければ、笑顔のミクリアがいた。何か言いたそうにしている彼が、自分の喉を指で示す。なんだといぶかれば、喉仏が動いた。 「ラウール様のかけらを、飲みました」  蠱惑的なほほえみに、ラウールの全身が熱くなる。悪戯をしかけた子供のような表情に、何を言えばいいのかわからない。 (だが、これで終わった)  かなりの衝撃だったが、望むことができて満足しているだろう。ミクリアは「抱く」と言ったが、こちらに覚悟を決めさせる方便に違いない。彼ほどの美貌と王子という地位があれば、男女問わず彼にふさわしい美貌の持ち主をいくらでも求められる。何も好き好んで、隠遁生活を送っている三十を超えた偉丈夫を抱く必要はないのだ。 (おそらく、国を救った英雄であるはずの俺が、こうして森でひとり過ごしている事を、心苦しく思ったんだろう)  王子であるからと、必要のない責任を感じているのかもしれない。幼い彼が熱心に騎士の稽古を眺めていた姿を思いだす。 (素直で、真面目な気質は変わらないままか)  負わなくてもいい責任を感じて、足しげく通ってきた上に憂いを取ろうと奮闘してくれたのだと、ラウールは考えた。だから膝裏を持ち上げられて、太腿とふくらはぎを重ねられ、左右それぞれベルトで縛られる意味がわからなかった。 「なんだ」 「縛るなんて、無粋なことはしたくないんですけど、自分で持ってくださいと言うのは、慣れていない相手には酷でしょうし、かといって、初めてでも気持ちよくなっていただくために、両手を使いたいので」  申し訳なさそうにしながらも、てきぱきと自分とラウールのベルトを使って脚を縛り終えたミクリアは、最後にラウールのズボンを膝の間を通して繋いだ。 「なんだ、これは」  股の部分を首にひっかけられて、ラウールの膝は胸を左右から挟む形に落ち着いた。体が丸まって尻が浮く。 「こうすれば、両手で解せますからね」  にっこりと言われても、ラウールはピンとこなかった。まさかそこまでと考える思考が、理解を遮っている。だが、尻を広げられれば、悟らざるを得なかった。 「ミクリア、本気なのか」 「本気ですよ」 「気を使って無理をしているんじゃないだろうな」 「気を使うって、なんのことです?」 「それは」  彼が王子であると気づいている。八年も経てばわからなくなっているだろうと思っているのかもしれないが、母親の面差しにそっくりなのだから、わからないはずがない。王子という立場から、国を危機から救った英雄が町を離れる原因となった戦闘欲をなんとかしようと、淫欲の対象にもならない男を無理にでも抱こうとしているのではないか。  脳にちらつく言葉を吐き出せば、ミクリアは嫌な役目をしなくて済む。だが、彼の気持ちを損ねやしないかと、ラウールは言いよどんだ。 「もしかして、私があなたを憐れんで、こんな事をしているなんて考えているんですか?」  心外な、とミクリアは顔をゆがめて立ち上がると、ためらいもなく股間のものを取り出した。 「こんなに猛っている私を見ても、同じ事が言えますか?」  自分のイチモツを握るミクリアに顔をまたがれ、欲の切っ先を突きつけられてラウールは絶句した。端麗で透明感のある彼とは結び付かない獣欲の象徴が、眼前に迫っている。先端が窓から差し込む光を受けて、しっとりと濡れ光っていた。 「このまま、あなたの口に押し込んでグチャグチャにかき回したいと思っているんですよ、私は」  言いながら、ミクリアは腰を引いてラウールの足元に戻った。 「ですが、今はやめておきます。ラウール様が私に抱かれる喜びを覚えるまでは」  股間に顔を伏せられて尻を開かれたラウールは、ぬめる感触に低くうめいた。孔に触れる弾力のあるものが、ミクリアの舌であることは明白だ。 (俺に欲情しているのは、憧れを勘違いしているからだろう)  騎士団の中で結ばれる者はたいてい、一目置いている相手に抱かれたいと願っていた。逆の立場は珍しいが、王子の矜持が抱かれる側ではなく抱く側という認識を産んだのではないか。  目の当たりにした獣欲に彼の本気を知ったラウールは、肉欲に開かれる覚悟を決めた。 「ミクリア……濡らすなら、何か別のものを使え」  潤滑油の準備がないから、唾液でほぐそうとしているのだと思ったラウールに、ミクリアの頬が持ち上がる。 「初めてだから、不安なんですね? 大丈夫ですよ。ちゃんとオイルを用意してきていますから」 「なら……舐める必要はないだろう? そんな……ところを」 「味わいたいんです。あなたのすべてを」 「ひっ、ぁ」  グッと舌を押し込まれて、すぼまりを開かれる。ヌコヌコと舌を出し入れされて、喉にせり上がってくる異物感に喉が開いた。 「ぁ、は……やめ……っ、ぁ、あ……っ」  切れ切れに訴えても、ミクリアはやめなかった。秘孔を舌でほぐしつつ、陰茎の根元をネコの喉をあやすようにくすぐってくる。 「ふっ、ぁ、あ……ひ、ぁ、あ……あっ」  たっぷりと唾液を塗りつけられて、舌が抜けたと思ったら指を差し込まれた。柔らかな内壁をまさぐられているうちに、異物感が快感に変わっていく。 「は、ぁ、ああ……あっ、ぁ」 「ふふ……指に絡みついてきますよ、ラウール様。ああ、早くここに私を突き立てたい……もっともっと、たっぷりと濡らしてほぐしてさしあげますからね」  艶やかな吐息を陰茎にかけられて、ラウールは身震いした。肌が粟立ち、劣情の熱が上がる。 「少し冷たいですが、ガマンしてくださいね。すぐに熱くなりますから」  グッと尻を開かれて、ひんやりとした瓶の口を秘孔に押し込まれ、トロリトロリと潤滑油を注がれる。 「ふっ、ぅ……っ」 「全部、注ぎ終わるまで待ってください」  内腿に口づけられて、ゾクゾクした。脚の根元を舐められれば、陰茎がビクリと震えた。欲の中心が刺激を求めて脈打つが、ミクリアの唇も指も求めには応じなかった。 「こんなに立派に育って……ああ、たくましいですね。ステキです、ラウール様」  瓶を抜かれて、たっぷりとオイルを含んだ箇所に指を沈められた。濡れた内壁をまさぐられ、淫らにほぐされ開かれる。 「ふ、ぁ、あっ、ああ……は、ぁん、く……ぅ」 「指に合わせて、ピクンピクンと跳ねていますね……先っぽから、いやらしい液を垂らして……もっと、もっと感じて蜜をこぼしてください。こちらの刺激だけで達せるほどに」  吟遊詩人の旋律に似た声に、ラウールは答えなかった。おとなしく終わりを待つ意外に、どうしようもないと考えている。だが、素直に嬌声を上げるのは恥ずかしく、奥歯を噛みしめてみるのだが、ミクリアの指は巧みに動いて、かすかな抵抗を無に変えた。 「ぁ、は、ぁ……ああ……っ、く」 「ふふ……甘い声ですね……酔ってしまいました……ラウール様、もうこんなに広がりましたよ。順応性が高いんですね。それとも、資質がおありでしたか?」  何の資質かなど、問わなくても察せられる。複数の指で押し広げられ、愛撫を受けてわななく己の内側が媚肉へと変わっていく奇妙な感覚に、ラウールは目を閉じて顔をそむけた。 「恥ずかしいんですか? 大丈夫ですよ、ラウール様。羞恥を忘れるほど、夢中にさせてみせますから」  指が抜かれて、秘孔がヒクつく。 「欲しがっているみたいですね。愛らしい……この可憐な花を散らしてしまうのは惜しいですが……ラウール様、すべて私に任せてください」  硬い物を尻に感じて、いよいよ貫かれるのだと悟ったラウールは、下唇を噛んだ。 「怖いですか? ゆっくり、優しくしますからね」  耳元でささやかれ、切っ先を埋め込まれて、ラウールは床に爪を立てた。カリカリと乾いた音がする。 「爪が痛みます、ラウール様」  腕を取られて、ミクリアの肩に置かれた。 「私になら、いくら爪を立ててもかまいませんから……しっかりと、しがみついていてくださいね」  言いながら、ミクリアは腰を進めた。じわじわと内壁を開かれて、圧迫感に押し上げられる。 「うっ、は、ぁ……あ」 「痛くはありませんよね? たっぷりとほぐしたのですから。もう少しで、全部入ります……んっ、ああ……ほら、これで全部ですよ」  肌がぶつかり、切っ先が止まった。奥まで開かれた圧迫感に、ラウールは胸を喘がせる。 「しばらく、こうやってなじませます。本当は、思い切り奥をブチ抜いて私をたっぷりと注ぎたいんですけど……じっくりと快感に目覚めていただきたいので」  ゆるゆると腰を動かすミクリアの舌に唇をなぞられて、両方の乳首を爪先で弾かれる。彼の腹に欲の先端が擦れるのが心地よくて、ラウールは息を乱した。 「は、ぁ……いい、から、さっさと済ませろ」 「いいえ、それでは目的が達成されません。あなたを快楽の虜にしなくては」 「俺は、今の生活に不満は無い」 「魔物といえども、屠らなくてもいい命を奪う生活を嫌悪していないと?」  痛いところを突かれて、ラウールの全身に緊張が走った。内壁が収縮してミクリアの熱を締めつける。 「っ、はぁ……ラウール様……図星でしたね。体は正直だ」  答えないラウールの態度こそが返事だと、ミクリアは艶やかな声でささやく。 「私に溺れてください、ラウール様。いいえ……溺れさせてみせます。自身の内側に潜む凶暴性に、あなたが煩わされないように」 「ぁ、は……っ、う」  乳首をひねられ、ゆるゆると内壁を熱杭で擦られて、ラウールは小さな嬌声を漏らした。内側を開かれる感覚に、体が順応しようとしている。鍛錬を欠かしたことのない肉体は、隅々までもが状況に即座に対応できるよう、訓練されていた。 「薬のせいで、もっと緩んでいるのかと思っていましたけど……ラウール様の中はしっかりと私を咥えてくれていますね」 「んっ、余計な口は利かなくていい……さっさと済ませろ」 「私に抱かれるのは、不服ですか? あなたが許すのは、あなたよりも立派な騎士だけなのでしょうね。ですが、この国にはラウール様以上の騎士など、いませんよ」 「誰も、そんなことは言っていない」 「じゃあ、何です?」 「目的を達成しろと言っているだけだ」  しばらく考えてから、ミクリアは頷いた。 「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます。正直、辛いんですよ……あなたの中に入ったまま、おとなしくしているのは」  言葉が終わらないうちに、ミクリアは勇躍した。めまいがするほどガツガツと打ちつけられて、肉壁が劣情に熱くただれる。 「ひっ、ぁ、ああ……あっ、は、ぁあううっ」  切っ先でえぐるように突き上げられて、ラウールは淫らに吠えた。肌のぶつかる音と、グチュグチュと空気とオイルが混ざる音が室内に響く。 「あっ、ぁうう……ぉ、ふぁ、あっ、あ」 「ラウール様、ああ……ラウール様……もっと、もっと声を聞かせてください……私を感じて」  夢中になって体を動かすミクリアに翻弄されて、ラウールは体を丸めた。太ももと腕で、彼の細い体を締めつける。 「すがりついてくれるんですね、ラウール様……うれしいです……もっともっと、気持ちよくして差し上げます」 「ひっ、ぁあぁああっ!」  深く内壁をえぐられて、ラウールはひときわ高い悲鳴を上げた。同時に陰茎を弾けさせ、欲液を噴き上げる。 「っ、すごい、持って行かれそうです……でも、まだ……もう少し」  顔をゆがめたミクリアの動きが早くなる。絶頂の最中にガツガツと追い立てられて、解放の恍惚が引き延ばされた。 「はひっ、ひ、ぅ……あぁああっ」  ドッと奥に熱い奔流を与えられ、ラウールは目を見開いた。自分の内側で、何かが壊れて砕ける音が聞こえる。その正体を把握するより先に、首筋に噛みつかれた。 「痛っ、う……は、ぁ」 「終わりじゃないですよ、ラウール様。まだまだ……枯れるまで私を注ぎます……初めてなのにと思われるかもしれませんが、初めてだからこそ、徹底的に淫蕩に耽ってもらうんです」  体を引いたミクリアに、ゴロリと体を反転させられた。カエルのように、這いつくばった格好になる。 「引き締まった背中も、とても魅力的ですね。今度は、こちらからさせていただきますね」  チュッと背中にキスをされ、ふたたび秘孔にミクリアを埋められる。先ほど放ったばかりだというのに、彼の熱は充分なほどに硬さを取り戻していた。 「こちらのほうが、もっと深い場所に届くんですよ……ほら」  ズンッと勢いよく押し込まれた切っ先が、ラウールの奥をこじ開けた。 「ひぃっ、あ、お、ふ……ぉ、ああっ」  先ほど自分の中で壊れたものは、抱く側である雄の自負だと気がついた。貫かれたからではなく、種をつけられた瞬間に壊れたそれは、二度と元には戻らないと本能で理解する。 「ラウール様、ラウール様」  うわごとのように名を呼ばれ、欲を内側に擦りつけられる。背後から回された手に胸筋をまさぐられ、うなじを吸われたラウールは、あえて理性を手放した。 (今の俺には、不要なものだ)  ただ獣のように本能に忠実になればいい。それこそがミクリアの望むものであり、これを終わらせるために必要なことだから。 「ぁ、ああっ、ん、は、ぁあ……あっ、あああ、ああ」  素直に声を上げて体を揺らすラウールに、ミクリアはますます興奮して愛撫に励んだ。 「もっと、もっと乱れてください。グズグズにとろけて、いやらしい踊りを見せてください」 「ふぁ、あっ、あ、ああ、あぁあ」  本能のみとなったラウールは、意識を飛ばしてしまうまで、与えられる快感を素直に享受し続けた。

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