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第5話
昼食を取り終えて畑の手入れを始めても、ミクリアは来なかった。いつもなら昼食の前にやってきて、食後にみっちりと濃厚な愛撫でラウールのすべてを味わうのに。
畑の手入れを終えて、軒先に積んでいる薪の上に腰かけたラウールは、まばゆい陽射しに目を細めた。
今日はいい天気だ。食料を探しがてら、森を散策してもいいかもしれない。
(だが、その間にミクリアが来たら……いや、気にする必要もないが)
胸に手を乗せて、顔をしかめる。来てほしいと望んではいない。彼は王子だ。公務や貴族たちとの交流など、しなければならないことは山とあるはず。日を空けずに通ってくるほうがおかしいのだ。
(飽きた、という可能性もある)
女の柔肌とは似ても似つかない、鍛え抜かれた肉体のみっしりとした筋肉を揉んでも楽しくないと、気がついたのだろう。
胸筋に当てている手を滑らせて、胸の先をシャツの上からクルクルとなぞる。力を込めていなければ、弾力のあるこれは女の乳房の感触と似通っている。だが、形が違う。力を入れれば硬く膨らむところも、女の乳とは違っている。
「ふ……ぅ」
息をこぼして、ラウールは両方の乳首を指先で弄んだ。シャツの上から指を滑らすと、ぷっくりと中心が硬く凝った。優しくつまんで指の腹で押しつぶすように転がせば、淡々とした官能が胸の芯から全身へと広がって、肌を粟立たせ、下肢にゆっくりと血が集まっていった。
「ん、ぅ……はぁ」
いつもなら、ミクリアの視線がある。だが、今日は誰も見ていない。
(する必要はない)
獰猛な衝動を抱えてはいないのだから、性的興奮を引き出して解消しなくてもいい。それなのにラウールの指は止まらなかった。
「ぁ、あ……はぁ」
背中を壁に預けて、天を仰ぐ。軒先の向こうには青々とした明るく高い空があり、さわやかな日差しが降り注いでいた。
昼間の野外でする行為ではない。せめて家の中か、人目から隠れる森の奥ですればいい。だが、こんなところにやってくる物好きはいないとも知っている。ミクリアが訪ねてくるまでは、ここ数年来客などなかった。かつて共に旅をした部下や同僚、親しく接していた貴族の面々も、ラウールが必要なものを買うために町に出たついでに、酒を共にする場合はあるが、向こうから訪ねて来ることはなくなっていた。
彼等が薄情なわけではなく、ラウールが訪問を断り続けてきたからだ。
(俺はもう、用済みの人間だ)
ふたたび国に脅威が訪れなければ、無用の存在だと考えている。むしろ、そうであってほしいと願っていた。寂しさを感じないわけではないが、孤独だとは思わない。今の暮らしに不足はないし、何よりも獰猛な情動が湧き上がっても、安心して発散できる。
「ふ、ぁ……ぁあ、あ」
キュッと乳首を押しつぶし、クリクリと軽くひねった。ジンジンと存在を主張して、もっと愛撫を与えてくれとねだる小さな部分に、全身が支配されていく。シャツ越しでは物足りなくて、まくり上げた服の裾を胸筋の上にひっかけ、指先を舐めて濡らすと改めて自慰に取りかかった。
「ぁ、あ……は、ぁあ……んっ、あ」
かすかな嬌声をこぼしつつ、ラウールは膝を開いて腰を浮かせた。股間がズボンを押し上げて、尻の谷にある可憐な洞窟がヒクヒクとわなないた。疼く股間に手を伸ばし、窮屈だと訴えるものを取り出すと、ふたたび両手を胸に当てた。ここで欲情をじっくり高めて、もどかしさを味わいながら、淫らな液を噴出する享楽の記憶に脳が支配されていく。触れていないのに蜜路が決壊する瞬間の、えもいわれぬ恍惚を追い求めて、ラウールは夢中で指を動かした。
「は、ぁ、ああ……あっ、あ、ああ」
淫らに昂っていく心地よさは、痺れるほどの悦楽に繋がっている。直情的に性欲の解消を果たすよりも、最上の陶酔が得られるのだとミクリアに教えられた。
誰も、ラウールに〝待て〟を要求しなかった。溜まったものを吐き出すための行為も、それなりにあった女性との経験も、すべて思うがままだった。ジワジワと高められ、与えてほしいと飢えながら満たされる心地よさを覚えてしまったラウールは、すぐそこにあるのに手に入れられない焦れったさに、うっとりと目を細めた。
「ふ、ぁ……ああ、あ……んっ、ん」
欲の先端から淫らな液が流れ続ける。ビクンビクンと脈動するそこは、むずがゆい興奮に震えていた。
触れたい。手のひらに包んで激しく上下に扱きたい。だが、その渇望を限界まで耐えきった先にある、胸乳だけで迎える絶頂の心地よさをラウールは追い求めた。
「んっ、あ、ああ」
頭の中が性欲に満たされる。射精願望に支配されて、周囲への注意など消え失せたラウールの耳に、声が届いた。
「こんなところで自慰をするなんて、誰かに見られたらどうするんですか?」
ビクッとして、ラウールは我に返った。おそるおそる首を動かせば、視界にミクリアが映った。
「っ……あ」
「遅くなりました」
ほほえんだミクリアが、ラウールの正面に移動する。見下ろされ、ラウールは顔をそらして膝を重ねようとした。
「ダメですよ」
脚の間に体を入れられて、膝を閉じられなくなった。怒張した欲の象徴とぷっくりと膨らんだ胸先を視線で愛撫され、ラウールの尻がヒクリとわなないた。戦闘に長けたラウールの肌は、注がれる視線をクッキリと把握する。恥じらいと、何をいまさらと開き直る気持ちの間で揺れていると、頬を指先でなぞられた。
「っ、は」
たったそれだけで、肌が震える。指は唇を撫でると、顎を伝って首を滑り、鎖骨のくぼみに落ち着いた。
「ラウール様……こんな姿を、私以外の誰かに見せるつもりだったんですか? 私が来なくても、別の誰かに相手になってもらえばいいと思って」
「違う」
浅く喘いだまま、ラウールはかすれた声で答えた。期待に体が疼いている。ふうんと鼻を鳴らしたミクリアの指は、鎖骨から胸筋の谷を滑って腹筋をなぞり、ヘソに到達した。
「は、ぁ……っ」
骨の奥から、ジワリと淫靡な熱がにじみ出てくる。
「甘い息ですね、ラウール様。私との情交が、習慣になってしまったんですか? だから、体が絶えられなくなって、こんなところで自慰を? それとも、ただ獰猛な衝動が湧き起こったから、なだめようとなされただけですか?」
問いの答えは、ラウールも持っていなかった。
(俺はなぜ、こんなところで自慰をしていたんだ)
出すだけならば、さっさとメインを扱いて放てばいいものを、野外で己を焦らした理由は何なのか。ミクリアの言うような理由なのかと考えるラウールの、陰茎の先が爪ではじかれた。
「はぅっ」
ピュッと液が飛び散って、ミクリアがクスクスと愉快そうに息を揺らした。
「最高です。部屋の中よりも、よく見えていいですね。野外でするなんて考えもしませんでした。ですが、このまま、じっくりと観賞させていただくのもまた、趣があって楽しそうです」
鈴口を指の腹でくすぐられ、裏筋をネコの喉をあやすように撫でられて、ラウールはブルブルと小刻みに震えた。
「あ……あぁ……あ、はぁ」
(気持ちいい)
自分でするよりも数倍の心地よさにうっとりと目を細めて、閉じようとしていた膝を大きく開く。太ももに力を入れて腰を浮かせたラウールの陰茎を、ミクリアは指先で慈しんだ。
「ん、ぁ、ああ……あっ、ぁ」
「ふふ。ラウール様……いったいどれほどの間、ご自身で胸を苛んでいらっしゃったのですか? あなたの槍が痛いほどに張り詰めて、脈打っていますよ」
「ふは、ぁ、ああ」
そっと裏筋を撫で上げられて、ラウールは喉をそらせた。腰が自然に揺れるのを止められない。
「ねだっているんですか? もっと撫でて欲しいと……愛らしいですね。下生えもグッショリ濡れて、奥の果実に張り付いてしまっていますよ」
「んぁっ、あ、ああ」
蜜嚢をやわやわと揉みしだかれて、ラウールは尻で大きく円を描いた。尻の谷にある孔がムズムズしている。濡れた指で開かれたい。熱く太いもので肉欲の畑を拓いて、快楽の種をたっぷりと植えてほしくてたまらない。
「ミクリア……っ、ぁ、ああ……さっさと」
「イキたいんですか? ですが、もう少しだけ。熱く可憐に震える姿を、もっと味わわせてください」
「ひっ、ぃん……くぁ、あっ、あっ」
濡れた下生えをかき分けるように根元を刺激されて、ラウールはさらに腰を突き出した。ジンジンする乳首は、片時も愛撫を忘れるなと主張している。ミクリアの指に陰茎を擦りつけながら、ラウールは胸の自慰を再開した。
「はっ、ぁ、あ……は、ぁあっ、あ」
「ああ、なんて淫らで美しい光景なんだろう……私だけの淫らで気高い獣……ラウール様……もっと、もっと甘えてください……私の手を求めてください」
「んぁっ、ぁ、ああ……っ、は、ぁう……も、ぁ、ミクリア」
煽情的な視線と声に、ラウールは頭を振って体を揺らした。握って欲しいのに、ミクリアの指は弧を描いたままで丸くならない。いくら擦りつけても、決定的な刺激にはならなかった。もどかしさが快楽を増幅させて、ラウールは涙を目じりに滲ませた。
「ふは、ぁっ、ああ、もぉ……あっ、ぁ」
「イキたいんですね? いいですよ、ラウール様。乳首だけでもイケる体になっているんですから、扱かなくても出せますよね」
キュッとクビレをつままれて、ラウールは目を白黒させながら腰を振り立てた。
「ひっ、は、ぁあっ、あっ……指、もっと、ぁ、ああっ、くぅ、んっ」
「しかたがないですね。先っぽを手のひらで包んであげます。存分に、擦りつけてください」
「あっ、は、ぁあっ、あ、ああっ、あ」
乳首をいじりながら腰を振るラウールの、膨らんだ筋肉が熟れた果実を思わせる。ムチムチに張り詰めた肌はしっとりと汗で濡れ、ラウールの匂いが強くなった。
「すばらしい……野性的で妖艶で、しなやかで力強い……最高です、ラウール様……あなたは至高の獣です……竜よりも気高い、極上の獣です」
ギュッと手のひらで亀頭を握られ、衝撃にラウールは弾けた。
「っ、はぁあああ!」
ブシッと激しい音を立てて、ミクリアの指の間からラウールの精が吹き上がる。絶頂を迎えてビクビクと痙攣する肉欲に、ミクリアの指が絡んだ。
「もっと、もっと出してください。空になるまで、たっぷりと」
「ふぁ、あっ、ぁ、ああっ、ああ」
して欲しかった刺激を射精中に与えられ、ラウールは鼻にかかった声を上げた。ゴシゴシと扱かれる陰茎が、残滓をトロトロとこぼしている。極まりの力みで絞まった尻に現れたエクボを撫でられて、ラウールは突き出していた腰を落とした。
「あっ」
ガララ、と薪が崩れてラウールの尻が地面に落ちる。解放の余韻に胸筋を大きく上下させるラウールの上に、ミクリアがのしかかった。
「いやらしいですね……とても、いやらしいです。ラウール様」
グニグニと力の抜けた胸筋を揉みしだかれて、ラウールは顔をそむけた。
「恥ずかしいんですか? 野外で淫らな行為にふけっていたのは、ラウール様なのに」
フッと鼻先で笑われて、ラウールのうなじが羞恥に染まる。赤くなった首筋に、ミクリアの唇が落ちた。
「本当に、獣みたいです。野外でサカッて、私の手に擦りつけて気持ちよくなって」
「言うな」
「どうしてです? 事実なのに。恥ずかしいから、なんて言わないでくださいよ」
ラウールは深い呼吸をひとつして、ミクリアの肩を押しやった。
「退いてくれ」
「いいんですか? これで終わりにしても」
「……」
「私を深い場所で味わわなくとも、平気なんですね?」
一瞬、ラウールの手が止まる。ヒクヒクと秘孔の口が反応した。奥で味わう快楽を思い出して、肌が粟立つ。
「欲しがっては、くれないんですか?」
残念ですと吐息を漏らしたミクリアの手が、ラウールのベルトを引き抜いた。
「なっ」
「まだ、教え方が甘かったみたいですね」
ボソリと低く流れたミクリアの声に、ラウールは片目をすがめた。
「何を……うっ」
濡れた急所を握られて、ラウールはうめいた。ミクリアの指に淫らな液で濡れた毛が絡む。
「一回、出した程度で満足なんてしませんよね? 遅れた分、たっぷりとお詫びも兼ねて奉仕をさせてください。これまで以上に刺激的な悦楽を、捧げてみせます」
妖しく艶やかなミクリアの息が、ラウールの唇に触れた。舌先で唇をなぞられて、薄く歯を浮かせたラウールは、彼の息は魅惑に優れた毒だと思いながら、蠱惑的な彼の舌を受け入れた。
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