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【鈴蘭の間】2
雲雀野遊びには、幾つかのルールがある。
首を護る為に、道具を使ってはならない。
如何なる状況においても、Ωの利き手の自由を奪ってはならない。
それ即ち、Ωは自力で首を護らねばならず、首を護れなくなる程までに理性を失った時────、その時を虎視眈々と狙う鷹に──。
「さて──と、どうするかな」
176cmの自身より10cmは身の丈の低い小粋を、幅広の布団に仰向けに転がし、零次は脇に立った儘ネクタイを緩めて策を講じる。
目の前で煽情的にみだりがわしい醜態を晒す小生意気な小僧を、どう懐柔してやろうか──。
押さえ込んで無理くり首に噛みついて遣るのも悪くない。
しかし、それじゃあ面白みに欠ける。
折角なら、焦らすだけ焦らしてギリギリまで追い詰めた後、最後の最後に甘美の極致で、──。
「薬を吸っておいて、ここまでとはね」
「、見るな」
大きく肌蹴た長襦袢の隙間から、顔を覗かせる屹立した一物を見ながら零次が感心したように呟くと、小粋は嫌悪を露に視線を遮ろうと足を擦り合わせる。
ちりん……──。
小粋の心情の揺れを表わすように、忘れた頃に響く鈴の音が零次の耳を心地好くする。
小粋が先刻までふかしていた煙管の中身は、煙草ではなく抑制剤と同等の効果が得られる香りの強い薬草の一種だ。
熱して吸引する事で効果が得られるのは勿論、紫煙にもその効果があると見られる。
それにΩには勿論、αに対しても同等の効果を発揮するらしい。
嗅覚が一時的に麻痺しているのか、最初の頃は甘ったるいきつい香りが鼻を突いたが今や零次の鼻はまるで利かない。
裏付けるように、とうに発情期を迎えていた小粋は汗を滲ませながら欲を孕んだ躰を持て余していたが、零次は未だに多少の昂ぶりを覚える程度で理性を保っている。
「まあまあ──まずは目で味わうのも趣深い」
「悪趣味が」
「そういうのも好みだろ、っと」
「ッ、!」
布団に膝をついた零次が小粋に向かってにじり寄り、細い脛を掴んで足を開く。
咄嗟の事に抵抗が遅れた所為で、思い切り秘部を曝け出す姿勢となった小粋が今更ながらに抵抗しようと力を入れてももう遅い。
がっしりと脛を掴む腕はそれを決して許しはしない。その上、股の間に割り込んだ体躯が、足を閉じるのを完璧に妨げた。
「お前の方がよっぽど悪趣味だろうに」
「黙れ」
「もう少し可愛げがあればなぁ」
「五月蠅い。好い加減に、ッ」
「──本当に勿体ない」
下半身の自由が奪われたのならば、上半身で。
そんな企みの下、肘をついて半身を起こしに掛かる小粋を、またもや阻むように零次は華奢な体に覆い被さった。
浮いた右肩を押し戻し、再び布団に縫い付けながら微笑を浮かべる。
「お前は兎角、思慮が浅い。色呆けして、余裕を演じる能もない。それでいて致命的に可愛げがない」
「、」
「じくじくと濡らしながら男が欲しくて欲しくて堪らないのに、決してそれを認めない」
「っ、ッ」
「それで?好い加減に、の続きはどうした」
「────退け、目の前で愚痴愚痴五月蠅い、しつこい」
小粋の眼前に迫るのは悔しさを覚える程に非の打ち所がなく、恰好の良い美しい顔だ。
それが柔らかく微笑みながら一言一句丁寧に愛を囁くかの如く、謗 り言を紡ぎ出す。
居た堪れないと顔を背くと、零次に向いた耳が低く甘い響きを、より鮮明に拾い取り、吐息の擽りを受けて尚居た堪れない。
酸素と共に肺から取り込み、血中に溶け込んでいた抑制剤の効果が徐々に薄れていくのが解る。
顔が熱い。抑制効果を得ても屹立していた下腹部が熱い、そして痛い。体中が熟れ、じゅっくりと濡れるのが嫌でも解る。
外気に晒され続けて委縮した胸の突起が、貫通する金属を締め上げて内側からずきずきとした痛みと疼きを訴えている。
屹立した其からも、同じく──否、それ以上に激しい疼きが先程から延々と続いている。
「一端の営業マンに、しつこいは褒め言葉だな」
ふっと呼気が鼻を抜ける音が響いた刹那。
ちりんっ。
「ッ、い゙ッ────!」
びん、と弾かれた一物が大きく揺れて、鈴を鳴らす。
激烈な痛みに濁る呻きが小粋の口から零れ、全身からドッと脂汗が吹き出した。咄嗟に急所を庇うように蹲ろうにも、零次の体躯が邪魔をする。
歯を食い縛り、眉根を寄せて、瞼に力を込める。
そんな苦悶の表情で鋭く重い痛みの余韻をやり過ごそうとする小粋を、零次は静かに見つめた。
沸々と湧き上がる加虐心の出所を探ってみるが、それが嗅覚を取り戻しつつある鼻が感じ取った小粋の色香によるものなのか、本性によるものなのかどちらとも判別出来ない。
それなら、と。
徐に小粋のモノの裏筋に親指を宛がい、3連のピアスが作る凹凸の感触を確かめるように、こりこりと押し撫でると小粋の悲鳴がくぐもった。
「ぎッい゙、いぃッッ───……だ、ぃッ!」
「ああ───、どちらにせよ、そそられるのか」
小粋の額に目に見えて浮かぶ汗を親指で拭き取り、零次はひとりごちる。
そして、暫しの間、時が過ぎるのを待った後で、細い顎を取る。
「小粋」
「ッ、っ」
「目を開けてごらん」
「──な、ン」
突然襲った急所の激痛が去っても、息を引き攣らせる小粋が薄目を開けた瞬間。
零次はかさついた小さな薄い唇に接吻を施した。
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