2 / 90
第2話 見えない鎖 <罠> 2
だんだんと覚醒する脳は、いつものあれだと理解する。
ここ数日、俺は、毎日のように痴漢に会っていた。
帰る時間は、まちまちなのに、何故か毎回、痴漢に会う。
痴漢する側ではなく、される側になっていた。
おっさんのケツ触って何が楽しいんだよ…。
指が再び触れ、ぐっと尻肉を捕まれた。
もにゅもにゅと無遠慮に揉みし抱く手に怒りが籠る。
誰でもいい。
踵を上げ、ぐっと踏み下ろした。
誰かが足を踏まれ痛がって暴れれば、尻にある手もいなくなる。
俺の痴漢撃退の常套手段。
こんな撃退法など、身に付けたくは、なかったのだが……。
「ぃっでっ!」
不服げに放たれたのは、若そうな男の声だった。
とりあえず、俺の尻にあった手が退いた。
はぁっと小さく息を吐く。
最寄り駅に到着した電車の扉が、プシューっと音を立て、開いた。
コンビニにでも寄って、つまみとビールでも買って帰るか……。
この歳になっても結婚もせずに、独り身。
家に帰っても食事の準備がされているはずもなく…。
とぼとぼと歩く俺の肩が、ガシッと捕まれた。
驚き振り返る俺の瞳に映ったのは、学ランに身を包んだ4人の男子高校生。
こんな時間に……?
あぁ。遊び呆けていて、時間を忘れていた…というところだろうか。
どうでもいいことが、頭の中を回る。
学ランの下にパーカーを着こんだ男が俺の前に、掌を差し出した。
きょとんと見つめる俺に、パーカー男が声を発する。
「オジサン、慰謝料」
「は?」
眉根を寄せ首を捻る俺に、赤い髪の身体つきのいい男に背負われた小柄な男が声を放つ。
「おっさんがオレの足、踏んだの。折れたかもしんない」
背負われながらも足を伸ばし、俺に踏まれたアピールをする。
「踏んでしまったのは、謝るよ。でも、あの満員電車じゃ、踏んでしまっても、仕方ないだろう?」
第一、 あの程度の衝撃で折れるわけがない。
はぁっと重めに吐く息に、唇やら、耳にやたらとピアスをした男が俺に寄った。
俯く俺の喉から顎に人差し指を這わせ、顔を上げさせる。
眉根を寄せ、怪訝そうな瞳を向ける俺に、ピアス男は、にたりと笑う。
「あの…さ、僕…貰っていい?」
何を言っているのか、わからなかった。
「本当、好きだねぇ~、お前」
声を放ったのは、赤髪の男。
背負っていた小柄な男をゆっくりと地面へと下ろすと、にやっとした笑みを俺に向けた。
俺の腕を掴み、ぐっと引いた。
急に、引き寄せられる感覚に、足元が絡まった。
ともだちにシェアしよう!