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第2話 見えない鎖 <罠> 2

 だんだんと覚醒する脳は、いつものあれだと理解する。  ここ数日、俺は、毎日のように痴漢に会っていた。  帰る時間は、まちまちなのに、何故か毎回、痴漢に会う。  痴漢する側ではなく、される側になっていた。  おっさんのケツ触って何が楽しいんだよ…。  指が再び触れ、ぐっと尻肉を捕まれた。  もにゅもにゅと無遠慮に揉みし抱く手に怒りが籠る。  誰でもいい。  踵を上げ、ぐっと踏み下ろした。  誰かが足を踏まれ痛がって暴れれば、尻にある手もいなくなる。  俺の痴漢撃退の常套手段。  こんな撃退法など、身に付けたくは、なかったのだが……。 「ぃっでっ!」  不服げに放たれたのは、若そうな男の声だった。  とりあえず、俺の尻にあった手が退いた。  はぁっと小さく息を吐く。  最寄り駅に到着した電車の扉が、プシューっと音を立て、開いた。  コンビニにでも寄って、つまみとビールでも買って帰るか……。  この歳になっても結婚もせずに、独り身。  家に帰っても食事の準備がされているはずもなく…。  とぼとぼと歩く俺の肩が、ガシッと捕まれた。  驚き振り返る俺の瞳に映ったのは、学ランに身を包んだ4人の男子高校生。  こんな時間に……?  あぁ。遊び呆けていて、時間を忘れていた…というところだろうか。  どうでもいいことが、頭の中を回る。  学ランの下にパーカーを着こんだ男が俺の前に、掌を差し出した。  きょとんと見つめる俺に、パーカー男が声を発する。 「オジサン、慰謝料」 「は?」  眉根を寄せ首を捻る俺に、赤い髪の身体つきのいい男に背負われた小柄な男が声を放つ。 「おっさんがオレの足、踏んだの。折れたかもしんない」  背負われながらも足を伸ばし、俺に踏まれたアピールをする。 「踏んでしまったのは、謝るよ。でも、あの満員電車じゃ、踏んでしまっても、仕方ないだろう?」  第一、 あの程度の衝撃で折れるわけがない。  はぁっと重めに吐く息に、唇やら、耳にやたらとピアスをした男が俺に寄った。  俯く俺の喉から顎に人差し指を這わせ、顔を上げさせる。  眉根を寄せ、怪訝そうな瞳を向ける俺に、ピアス男は、にたりと笑う。 「あの…さ、僕…貰っていい?」  何を言っているのか、わからなかった。 「本当、好きだねぇ~、お前」  声を放ったのは、赤髪の男。  背負っていた小柄な男をゆっくりと地面へと下ろすと、にやっとした笑みを俺に向けた。  俺の腕を掴み、ぐっと引いた。  急に、引き寄せられる感覚に、足元が絡まった。

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